16日に初日を迎えた「ヘンリー八世」(彩の国さいたま芸術劇場)を見てきました。

英国史上、もっともスキャンダラスな国王と言われるヘンリー8世を主人公にしたシェークスピア作品。2020年に阿部寛主演、吉田鋼太郎演出で上演されましたが、コロナ禍の中、緊急事態宣言のため千秋楽目前で4回公演を残して公演は中止。その後に予定された地方公演も中止となりました。そのため、出演者、スタッフから中止を余儀なくされた悔しさから早い段階で再演を望む声があがり、今回の再演となりました。再演では脇の共演者は多少でも変わるケースが多いのですが、今回は初演とほぼ同じメンバー。それだけ結束力の強いカンパニーです。

阿部は初演よりもさらに国王として存在感が際立ち、揺るぎがありません。演出と同時に側近ウルジー卿を演じる吉田は権勢を極めた末に失脚し、ボロボロになる過程を滑稽かつエネルギッシュに見せました。そして、再演で驚いたのは国王が信頼を寄せる大司教トマス・クランシーを演じた金子大地の成長ぶりでした。初演では初舞台ということもあって、「初心者」マークの演技に見えましたが、今回は敵対する司教と堂々と渡り合い、国王が彼を抜てきするのもうなずけるほど、安定感がありました。金子は放送中のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で2代将軍頼家を演じましたが、そこでの経験が舞台でもしっかりと生きていたようです。

この舞台では、ラストにヘンリー8世と2番目の王妃アン・ブーリンとの間に生まれた娘「エリザベス」の洗礼式の場面がありました。エリザベスは後にエリザベス1世として、英国を繁栄に導く女王ですが、観客には事前に紋章入りの小旗が渡され、洗礼式の間に何度も小旗を振って、観客も一体になってエリザベスの晴れの日を祝う演出でした。偶然ですが、70年間も英国の女王だったエリザベス2世が先日亡くなり、19日には国葬が行われます。

同じ「エリザベス」という名を持つ2人の女王。初演での中止がなければ、この時期の再演はなかったでしょう。舞台と現実の「エリザベス」を通して、英国の歴史をもう少し学んでみたくなりました。【林尚之】