冬ももう数日で終わり春が来るが、季節の移り変わりとともに、吉野家の冬季メニュー「牛すき鍋膳」も、恐らくもうすぐ販売終了を迎えることになる。

都内を電動自転車で移動中、その厳然たる事実をふと思い出してしまい、衝動的に某店に駆け込み、牛すき鍋膳を電撃注文。ついでに思い切って「肉2倍盛り(プラス300円)」に踏み切り、牛すき鍋膳との間もなくきたる“別れ”を惜しみつつ味わっていたところ、スマホがピコッと鳴り、メールが届いた。

もうすぐ提供時期が終了するであろう「牛すき鍋膳」。肉2倍盛りに踏み切ったが、この写真撮影後、生卵ももう1個追加し“ダブル生卵”にしている
もうすぐ提供時期が終了するであろう「牛すき鍋膳」。肉2倍盛りに踏み切ったが、この写真撮影後、生卵ももう1個追加し“ダブル生卵”にしている

画面を見ると、差出人は「AV女優」。最近、なぜかまた筆者のスマホ宛に急増しているスパムメールの1通と思われたが、それにしても差出人名が抽象的すぎる。あまりにもアバウトだ。肩書は分かったが、要は誰なのか。それを名乗ってくださいよ。作成者はいったい、何を考えているのか……。

この、あまりにも抽象的な差出人名から、ある「幻の案件」を思い出した…
この、あまりにも抽象的な差出人名から、ある「幻の案件」を思い出した…

……などと、メールそのもの及びその作成者に対するツッコミを脳内での1人おしゃべりでマシンガンのように入れまくっているうちに、もう笑いをこらえられなくなり、吉野家のカウンターで牛肉をほおばりつつ噴き出しそうになり、それを我慢するというおかしな状況に突入。

ただ、単独客が、笑いで噴き出すのをこらえているようなヘンな表情を浮かべ続けていると不審客か変質者扱いされる恐れがあったので、あたかも「肉2倍盛り」の牛すき鍋膳を食べ、その満足感から自然に笑みがこぼれているかのような雰囲気に徐々に顔面の筋肉をシフトし、ある種のソフトランディングをはかるのに必死だった。

そんなことはさておき、「セクシー女優」といえば、何年も前のことだが、現場取材記者時代にちょっとした話があった。

テレビにもよく出ている某男性芸能人が、あるセクシー女優と交際しているとの確定的な衝撃情報をキャッチ。かなり深い交際のようだったので、記事化も視野に入れつつ双方の事務所サイドや近い関係者らにあてたりしたのである。

女優側の事務所関係者は否定はせず「書くんですね」という感じの対応で、「もし記事にするなら云々…」といくつか要望を言ってきた程度だった。

一方、男性側の事務所関係者は、同芸能人にもすぐ聴取し、その女優との関係を本人が認めたことも正直に明かしてきた上で、筆者に対し、「諸事情」でこの件を記事にするのはやめてほしい、という趣旨の要請をしてきた。

筆者としては、記事化を視野に入れつつ確認取材作業はしたものの、「諸事情」はよく理解できたし、すぐ無理やり押し切るような案件でもないとも思っていたので、その後もゆるやかに調整を続けていた。

するとちょうどその直後、たまたまその男性芸能人が出席するイベントが都内であり、筆者がその取材に行くことになったのだ。

もちろん、前述の状況もあったし、その芸能人に対し、独自情報でもある交際問題を多くのメディアがいる前で直撃したりするつもりは一切なかったが、囲み取材の時、同芸能人に対し、同イベントに関連したちょっと変わった質問を話の流れ上、してしまったのだ。

するとその芸能人、筆者に対し、質問内容に爆笑しつつ「そんな面白い質問をするアナタ、いったいどこの会社の記者さんですか?」とうれしそうに逆質問してきたのだ。

恐らく、彼が、事務所サイドから本紙が女性関係の情報を当ててきたことは聞いていたはずだったため、筆者も「社名を出したら、確実にヘンな空気になるであろうが、とはいえ社名を聞かれたからウソはつけないし、答えざるをえない…」などとわずか数秒の間にいろいろ考えたものの、どう考えても社名をさっさと名乗らざるを得ない雰囲気のため、仕方なく、ぼそっと「ニッカンスポーツです」と答えた。

すると「ニッカン」と聞いた瞬間、それまで爆笑していたその芸能人の表情が異様なまでに硬直し、顔から笑みが消え、その後、ほとんど無口になってしまったのである。こちらとしてはほんとうに他意はまったくなかったが、想定した通り“妙な空気”になってしまった。感性が異様に鋭い、他社の一部記者は「なんで彼、ニッカンの名を聞いた瞬間、表情が変わったんですかねえ。なんかあったんですか?」と筆者に突っ込んできたりしたが、真相を言えるわけもなく、笑ってごまかすのに必死だった。

結局、その件は、くすぶっているうちに交際自体がいろいろあって終了したようで、記事化することもなく完全に“幻の熱愛ネタ”となった。吉野家で、今季あと何回食べることができるか分からない牛すき鍋膳をたいらげつつ、そんな昔話を思わず思い出した「AV女優」からのスパムメールだった。

【文化社会部・Hデスク】