「すみれ色」のベールに包まれた宝塚歌劇団。その魅力は、日本の四季で言えば、はかないからこそ美しい「桜」と同じだと言える。どれほど人気があり、優れたトップスターであっても、おおよそ2年~2年半をメドに、必ず退団する。トップに就いたその瞬間から、退団へのカウントダウンが始まる。

 5月29日、本拠地に別れを告げた雪組トップ早霧(さぎり)せいなは、トップ就任から全5作の本拠地作で、宝塚大劇場(収容2550席)の稼働率100%超えを達成。新記録を保持したまま退団していく。

 劇団103年の歴史で、例を見ない数字を打ち立てても、例外ではない。主演するトップのキャラクターから作品を選び、もしくはオリジナル作を企画する「あて書き」システムの宝塚では、トップの責任はとてつもなく重く、チケットの売れ行きのすべてを負うと言っても過言ではない。

 役作りはもちろん、ファンサービスから“営業活動”、より良い公演になるような組の雰囲気作りと、多岐にわたる責を負う。体力、気力とも、その限界が2年~2年半になる。早霧自身も、退団を決めた発表の席上で「このままの体力で止まっていられるなら、ずっと男役を続けていたいが、それは無理なので、去ります」と話している。

 その限られた時間のトップ生活の中で、相手娘役との相性も、運命を分ける。トップ娘役の場合、歌、ダンス、芝居の技術があるから就任できるものでもない。トップスターとの相性が最重要視されるが、実際に組んでみないと、真の相性は分からない。相性の良さ、相乗効果で人気爆発となったのが、雪組の早霧と、相手娘役・咲妃(さきひ)みゆのコンビだった。

 芝居巧者同士のコンビ。早霧は、男役絶対優位の宝塚において、咲妃に同等の立場に上がることを求め、咲妃は責任も負った。プライベートでも2人の仲の良さをファンが知り、喜んで応援していた。

 本拠地最後に上演されるサヨナラショーでは、本来、トップのナンバーが7割ほどを占めるが、このコンビの場合は、4割ほどがデュエットという異例の比率だった。早霧は「構成は咲妃と相談して決めた」と話した。トップが、相手娘役と“相談”するケースも異例。信頼感の象徴、デュエットダンスも連発。2人のコンビらしい「絆」を余すことなく見せつけ、本拠地から去って行った。【村上久美子】