フランスで行われた第71回カンヌ国際映画祭で、是枝裕和監督(55)の「万引き家族」(8日公開)が最高賞であるパルムドールを受賞しました。授賞式後、会見した是枝監督は「あと20年は(映画を)作りたいなという勇気をもらいました」と話しました。先日、インタビューする機会がありました。「あと20年-」。実はこのコメントは“パルムドール特需”を狙ったものだったそうです。舞台裏を聞きました。

 大阪市内のホテルでのインタビューにトロフィーを持って現れた是枝監督は「あまりに浮かれて『調子に乗りやがって』と言われないよう、白い歯を見せないようにしてます」。ちゃめっ気たっぷりに気を引き締めました。帰国後、周囲の反応はガラリと変わったそうです。「タクシーの運転手さんにも『よかったですね』と声をかけていただいてます」。

 授賞式後の「あと20年-」のコメントについて聞くと、笑みを浮かべながら「そう言うと止まっている企画が動くかなと思って。(この受賞を)うまく使えればいいかな」と明かしました。

 柳楽優弥主演でカンヌ国際映画賞の男優賞を取った「誰も知らない」(04年)、福山雅治主演の「そして父になる」(13年)、「三度目の殺人」(17年)など多くの作品を手掛けてきましたが、温めていても前に進まない企画は「山ほどありますよ。撮れない企画のほうが多い。難しい、偏差値高いとかいろいろ言われてね。自分で絶対無理だと思ってるのを抜いても4つはある」と話しました。

 映画は脚本づくりから、キャストやロケ地の選定など準備段階に多くの時間と資金を費やします。4つの企画の中には「戦時中の話で、事前にリサーチがいるものもある」そうです。

 これまで制作費の捻出に悩み続けていただけに「20年-」コメントにはしたたかさがありました。

 世界で最も注目を集める国際映画祭で頂点に立ち、名実とも世界の巨匠になったことで、これまで付き合いのなかった人が近寄ってくるかもしれません。「もし近寄ってきたら気持ち悪いですか?」の質問には「そんなことは思っていても口には出しませんよ(笑い)。(企画が)動けば動くほどいい」。ジョークの中にも必ず企画を実現させたいという強い思いを感じました。予算面について“パルムドール特需”が期待できるはずです。

 すでに“パルムドーム効果”も現れています。「万引き家族」の公開館数は当初予定の全国200館から1・5倍の300館以上で公開され、海外149の国と地域への販売が決定しました。

 パルムドールはフランス語で「黄金のシュロ」という意味です。シェロはヤシ科の植物で、欧州では勝利の象徴です。トロフィーにもあしらわれています。カンヌの大勝利は、「絶対に無理」な企画さえも実現させてしまうかもしれません。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)