もうすぐ暑い夏がやってきます。夏と言えば、怪談です。怪談と言えば、この人、怪談の語り部として活躍するタレント、稲川淳二さん(70)。先日、カンテレの夏の風物詩「稲川淳二の怪談グランプリ2018」(予選=7月22日深夜1時、決勝=同29日深夜1時)の会見があり、取材する機会がありました。古稀を迎え、進化を続ける“稲川怪談”のキーワードは「笑ったじじぃの恐怖」です。

 大阪市内にあるカンテレのスタジオ。「いやいやいや~、お待たせ。お待たせいたしました」。現れた稲川さんは恐怖のロケを語り出しました。同番組は09年7月にスタートし、10年目を迎えます。16年の廃虚でのロケについて、ゆっくりと口を開きました。

 「田舎の廃虚、あれ役場かなんかだったんでしょね、なんか気になるから、裏に行ってドアを開けたら、とんでもないみこしがあった。みこしが…。相当古いもので、ほこりをかぶっていた。でも周辺に生活のにおいがあった。なぜかって言うと、さっきからず~と音がしている。近寄っていくと、だれもいなんだ。あの場所で怪談を始めたら、ミョ~に怖い雰囲気になって、音はするわ、照明は切れるわ。パニックでしたよ」

 往年の決めゼリフ「喜んでいただけましたか?」こそ飛び出しませんでしたが、「やだな~」「気持ち悪いな~」です。

 年齢を重ね、味わいを増す「稲川怪談」ですが、柔和な笑顔は好々爺(や)のようです。

 「50代は脂っ気があるし、色気もある。60歳になってもなんかしがみついている。70歳になると枯れてくるし、向こうが見えてくる。若いころは死が恐怖だったけど、年とともに恐怖じゃなくなってくる」 死を身近に感じることで、怪談のスタイルが変わったそうです。

 「いつか自分は死ぬことを知っているし、いつかは必ず来る。でもその日があることを分かっているから、わりと穏やかに、怪談を話すことができる。距離感がとっても近いんですよね」

 若いとき、怪談は笑わず、鬼気迫る顔で観客に迫っていました。

 「最近、怪談するときは、よ~く笑っている。『笑ったじじぃの恐怖』みたいなものが自分にもある」

 「笑った-」のヒントは情報収集の全国を歩いたことから得たといいます。93年から続く真夏にイベント「稲川淳二の怪談ナイト」のツアーが終わると、題材を探しに各地を訪れます。

 「宿のじいさんとか農家のおばあさと知り合いになる。その人たちが怪談をしてくれる。その人たちと話をしていると気づいたんですよね。みんなね、笑顔なんですよ。怖い顔じゃない。『稲川さんよ、若いときよ。こんなのがあってな…』。笑って話しているじいさんの話の怖さ。そうか、怪談というのは、夢中でしゃべり、相手に伝えようする視線、そこが怖い」

 怪談歴50年。全国各地を歩き、死を身近に感じることで、やっとたどり着いた“稲川流”の極意です。

 「バババ、バーン、ドッ、ドッ、ドッ…」。会見中でした。何かが落ちる音が…。あぁ~、一瞬、身体が固まりました。そのとき、稲川さんがニヤリと笑いました。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)