女優一路真輝(61)が芸能生活45周年のメモリアルイヤーを迎えた。宝塚歌劇団雪組でトップを務め、退団後も舞台、映像作品など、第一線で活躍を続けている。不器用さが努力につながり、謙虚さが日々の努力を支えてきた。これまでの45年間を振り返り、これからへの変わらぬ思いを語った。【小林千穂】
★どの現場も新鮮
舞台で放つ存在感をまといつつ、ふんわりした優しい雰囲気がある。45周年を祝うと、照れ笑いした。
「本人が一番自覚が足りないくらいなんです。45年もこの世界にいるのに、どの現場も新鮮で、どの現場でも足りない自分が見える。やることがいっぱいある世界だとあらためて感じています」
先日は記念コンサートを開催。別のコンサートもあり慌ただしく準備が進んだが、大盛況だった。
「不器用な人間なので、1つのことをやると、別のことができなくなっちゃうんです。1つのことに時間かけて、ああでもない、こうでもないってやり続けたからこそ、45年もやってこられたのかな。不器用で良かったです」
82年に宝塚歌劇団で初舞台を踏んだ。
「初舞台のラインダンスで、足を捻挫したんです。すごく腫れて痛かったんだけど、満身創痍(そうい)でやるのが当たり前の時代。痛くて泣いて踊っていました。おかげで、ショー・マスト・ゴー・オン(=幕が上がったらやり通す姿勢)を学びました」
不器用だからこそ努力する姿勢は、宝塚音楽学校入学の時にさかのぼる。
「単純に宝塚ファンで、好きで入りたいという気持ちだけでした。その私が半年くらいのにわか勉強で受かってしまったんです。夢見心地でした。ついていけるかなんて、想像すらしていませんでした。皆さんはバレエのレッスンを10年くらいやって受かっているわけですから」
半年の勉強で受かった自分はすごい、と勘違いしなかったところが一路の本質のような気がする。
「いえいえ! 皆さんここ(頭の上の高さ)まで足が上がるのに、私はここ(肩より下)くらい。勘違いしようがないです。いくら怖いもの知らずの女の子でも現実は見えるので、朝から晩まで頑張るしかなかったんです」
★いくつもの転機
雪組に配属され、男役人生を踏み出した。いくつも転機があった。3年目、当時のトップ、麻実れいの退団公演で、娘役ではなかったが、イレギュラーで相手を務めた。
「麻実さんは背が高い方なので、(バランスを考え)娘役としたら割と背がある私にお声がけいただいたんです。そのまま娘役になる選択肢もあると言われ、悩みました。でも麻実さんにご相談したら『一路ちゃん、宝塚は男役の世界。戻らないとダメよ』と。分かりました! と、また男役修行が始まりました」
数々の舞台を重ね、93年に雪組トップに就任した。
「男役をもう1回やろうと思ったから、大好きな宝塚に長くいられました。あの時、麻実さんというすばらしい包容力のある男役さんの相手をしたことで、男役さんが娘役さんにしてあげるべき舞台でのフォローなどを学びました。なかなかできない経験で、本当にラッキーでした」
96年の退団公演は日本初演の「エリザベート」。黄泉(よみ)の帝王トートを演じたが、トップ退団公演という晴れの場で、死にまつわる演目は賭けだった。
「吉と出るか凶と出るか、白か黒しかなかった。なんとなくいい作品にはならないと思っていました」
結果は、今、同作が、宝塚だけでなくミュージカル演目の中でも屈指の人気を誇ることからも分かる。退団後は、東宝版「エリザベート」でタイトルロールを演じるなど、深く作品に関わってきた。
「『エリザベート』がなかったら今の私はありません。演劇人生の財産です」
02年のラブコメディー舞台「キス・ミー・ケイト」では、新しい自分に出会えた。
「ブロードウェーの振り付けの方に『一路真輝というよろいがとても邪魔だ』とはっきり言われ、けっこう変わりましたね。自分を開放し、よろいを外させてくれた作品です」
★かかあ天下の役
9月にはミュージカル「民王」が控える。新鮮なチャレンジになりそうだ。
「息子を溺愛(できあい)する母で、多分かかあ天下だと思うんです。今までにないキャラクターになりそうですね」
母親役には自分が母親であることが生きるのだろうか。
「お子さんがいらっしゃらなくても日本のお母さんのような女優さんもたくさんいます。実体験が大事だとはあまり思わないかな」
出産でいったん舞台から離れた一路の復帰を後押ししてくれたのは、娘だったという。
「不器用なので大きな舞台をやりながら子育てするって無理だと思い、辞める覚悟でした。でも、娘が幼稚園の時『舞台に立っているママが見たい』と言ってくれました。復帰の背中を押してくれた娘はとても大きな存在です」
刺激をもらえる友人もできた。歌手坂本冬美だ。ドラマ共演で知り合い、25年の舞台で距離が縮まった。記念コンサートにもゲスト出演してもらった。
「毎日、舞台上でトークをするシーンがあったんです。仕事に対する考え方がすごく似てて、『分かる、分かる!』って。お客さまの前でしゃべってるうち、本当に仲良くなりました」
毎朝のルーティンはベッドの上で軽くストレッチしお風呂で体を温める。温まった後でストレッチポールに乗り、体が緩んできたら発声を行うのだという。
「何が来てもできる自分を作っておきたいと思っています。やりすぎないことも大事。長く舞台に立つための体作りが分かってきました」
45年、貫いてきたことを尋ねた。
「不器用で完璧にできるものが1つもないからこそ、1つの道を突き詰めようと思えるんだと思います」
◆歌手坂本冬美(59)
石井ふく子先生演出のドラマで共演し、昨年私の舞台にご出演いただき、いろいろお話しする中で似ているところがあり、波長が合い親しくしていただいています。一路さんの運転で横浜ドライブをしたり、お食事に行ったり。一路さんは正直で、サッパリした性格ですが、その半面とても繊細で気遣いの方です。少し天然なところもすてきです。女優としてはさまざまな役柄や心ある歌声を、男役では格好良い所作に凜(りん)とした歌声、両極を演じ歌い分けられるところが魅力です。
◆一路真輝(いちろ・まき)
本名・石川いづみ。1965年(昭40)1月9日、愛知県生まれ。82年に宝塚音楽学校卒業。雪組トップスターとして「風と共に去りぬ」など話題作に出演。96年に退団後は、ミュージカル「王様と私」「南太平洋」「アンナ・カレーニナ」など。宝塚版と東宝版で「エリザベート」に出演。重厚な役どころから、ちゃめっ気のあるコメディエンヌまで幅広い演技が魅力。96年に菊田一夫演劇賞、04年に読売演劇大賞優秀女優賞、16年に松尾芸能賞優秀賞など多数。








