就任本拠3作目の雪組トップ彩風咲奈が、浅田次郎氏のベストセラー小説「蒼穹の昴」初の舞台化に臨む。清朝末期の中国・紫禁城を舞台に繰り広げられる一本もの。トップ娘役朝月希和は今作で退団を発表しており、最後に「ただの恋仲ではない」関係性をコンビ集大成として表現する。兵庫・宝塚大劇場で10月1日~11月7日、東京宝塚劇場で11月26日~12月25日。

トップ本拠3作目「今までで一番耐える」役だという彩風咲奈
トップ本拠3作目「今までで一番耐える」役だという彩風咲奈

彩風のトップ本拠3作目、相手娘役朝月希和とのコンビでの最後の公演は、清朝末期の紫禁城を舞台にした歴史大作。科挙に首席合格し、改革派の俊英としてならす文秀にふんする。

「稽古をしながらも、苦しかったり、つらかったり。それらを乗り越えて生きている役なので。今まで演じた中でも、一番辛抱しなきゃいけない役、耐える役だと思っております」

浅田次郎氏の原作小説は、日中合作でドラマ化もされた。作品を見て原作を読み込み、稽古に励む。彩風自身、宝塚音楽学校を首席卒業。経験も多少リンクするのでは? と聞けば…。

「あはは(笑い)。宝塚音楽学校は勉強ではなく、実技の結果なので…。文秀は、すごく優秀な生徒。心で感じることに、頭も使って演じなきゃ! エリートでもあり、見た目、立ち姿はかっこうよく演じたい」

細かな刺しゅうの入った中国衣装も美しい。

「ポスター衣装も皆、刺しゅうが違う。腕を動かすのも、細かく動いていては伝わらない。稽古場から裾が長い服を着ていますね」

原作には、夢のお告げに従い、一皮むける場面があるといい、男役としてのヒントも得たという。

「宝塚の男役として作り上げてきたもの、加えて『今まで生きてきた思い、経験を出していけばいい』と、言ってもらった気持ちになりまして(笑い)。その場面は(今作には)ないんですけど、それを気持ちに入れて演じたいです」

原作で得た世界観を投影する。彩風自身の“お告げ”の経験を聞くと-。

「ええ? あ! 宝塚に入るというのは、母のお告げかも(笑い)。宝塚を見たことがない時から、夢が宝塚の男役だったので。母がずっと願っていて」

トップ本拠地1作目が「CITY HUNTER」、同2作目は「夢介千両みやげ」で道楽修行に出る若旦那から、今役は一変。前作は世界巡りレビュー「オデッセイ」で、得意のダンスを存分に発揮した。

「今まで(役柄で)発散してきたし、前作では(華麗なダンスで)すべてを出しきる楽しさを頂いた。今回は、耐えて、耐えて、耐え抜いても、心の中、背中、表情からにじみ出る何かを表現したい」

彩風演じる文秀と、義兄弟のちぎりを結ぶ春児は宦官(かんがん)として西太后の側近へ上り詰める。

「前半は2人、兄弟げんかのような場面もあって、本当に仲良く。朝美と毎回、2人でぶつかり稽古のように(笑い)。本気でけんかしてみたり…」

後輩の朝美が遠慮しないよう、声をかけた。

「つっかかってきてもいいから、と。お互いひとりっ子なので兄弟がいる感覚はどう? などと話して。本当の兄弟以上の絆で、運命がわかれて敵同士になっても心はつながっている。凝縮したお芝居を届けられるよう、初日まで『ぶつかり稽古』を続けたい」

時代に翻弄(ほんろう)されつつも、「運命」「宿命」を変えようと動く。

「運命を変える-とまでは…ですが、最近(の実体験)で言うと、1月に『オデッセイ』が中止になり、この夏(8月)に公演ができて、千秋楽まで完走できた。『絶対にやってやる』『私たちが希望の船になるんだ』って強く願い、努力した結果、今この瞬間じゃなくても、いつかは変わるのかなって思いました」

相手娘役朝月希和との最後の公演に臨む雪組トップ彩風咲奈
相手娘役朝月希和との最後の公演に臨む雪組トップ彩風咲奈

5組の年間スケジュールが長期スパンで決まる劇団にあって、中止公演を組み直すのは容易ではない。

「(オデッセイは)歌と踊りだけなのに、お芝居しているような気分にも。体と心と声とすべてを使い表現する喜びを経て、今回ギュッと固めて臨みたい」

スタッフへの感謝を胸により進化。絶大な信頼を寄せる朝月を見送る。

「朝月とは『最後という気持ちではなく、コンビでの最高の作品を』と話しました。朝月が卒業しても私は彼女の道を応援するし、朝月も私たち雪組に心を寄せてくれるだろうなって。信頼もある。今回、未来をにおわせる終わり方で、ちょっと運命的なんじゃないかなって感じています」

“運命の作品”と予感し、朝月との最後の公演に臨む。【村上久美子】

◆グランド・ミュージカル「蒼穹の昴」(脚本・演出=原田諒) 19世紀末、清朝末期の紫禁城を舞台にした浅田次郎氏のベストセラー小説を初めて舞台化。

梁家屯の地主の次男・梁文秀(彩風)は「汝(なんじ)は学問を磨き知を広め、帝を扶翼し奉る重き宿命を負うておる」と、占い師から予言を受けた。自身の才覚に迷いつつも、科挙の試験に首席合格。光緒帝(縣千)に仕え、改革派の俊英として名をはせていく。

その文秀とかつて義兄弟の契りを交わした極貧の少年、李春児(朝美)もまた、占い師から「その手にあまねく財宝を手にするだろう」との予言を受け、その言葉に夢を託し、妹の玲玲(朝月)を故郷に残し都へ出て、宦官(かんがん)となり、西太后の側近へと上り詰める。

☆彩風咲奈(あやかぜ・さきな)2月13日、愛媛県生まれ。07年入団。雪組配属。新人主演5回。長身で脚長、小顔のスタイルでも注目。昨年4月トップ就任。同8月「CITY HUNTER」「Fire Fever!」で本拠地お披露目。今年3月からの2作目「夢介千両みやげ」「Sensational!」では、芝居でひょうひょうとした若旦那、レビューでは華やかなショースターとして魅了。8月に「ODYSSEY(オデッセイ)」主演。身長173センチ。愛称「さき」。

◆おことわり 公演日程については変更の可能性があります。最新情報は、宝塚歌劇団の公式ホームページなどで確認ください。