民放4月改編でテレビ東京が深夜の30分ドラマ枠「サタドラ」(土曜午後11時25分)を新設した。1月期にはテレビ朝日が土曜11時台を30分ドラマの2階建てにしており、民放深夜は週に17本超の30分ドラマが乱立する様相となっている。気楽にさくっと楽しめる魅力がある一方で、脚本業界からは「大きな物語が作りにくくなっている」と懸念する声も聞かれる。

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民放各局の4月改編発表資料
民放各局の4月改編発表資料

テレ東のサタドラ枠第1弾となるのは、本仮屋ユイカ主演のラブサスペンス「私の夫は冷凍庫に眠っている」(4月10日スタート)。裏にはテレ朝が1月期に新設した30分ドラマ枠「オシドラサタデー」の「コタローは1人暮らし」(主演横山裕、4月24日スタート、土曜11時半)があり、早くも30分ドラマ同士の直接対決となった。30分枠ではないが、同時間帯にはフジテレビ「オトナの土ドラ」枠の「最高のオバハン 中島ハルコ」(4月10日スタート、土曜11時40分)があり、民放三つどもえの視聴率争いがスタートする。

30分の短尺ドラマ枠は各局にあり、日本テレビは月曜深夜1時枠の「シンドラ」、TBSは火曜深夜1時半枠の「ドラマイズム」、フジは月曜深夜0時25分からの30分2本立て「ブレイクマンデー24」のほか、「Mナイト」「Tナイト」など。群を抜くのはテレ東で、水曜は深夜0時から「ドラマホリック!」「ドラマパラビ」「水ドラ25」の3階建て、木曜の「木ドラ24」、金曜の「ドラマ24」「ドラマ25」などがタイムテーブルを席巻している。

ちなみに、この中で5年前から存在するのはTBSの「ドラマイズム」と、テレ東の「ドラマ24」の2枠み。ほかは、主に17年の改編から続々と誕生したものだ。

17年が転機となったのは、配信やSNSなど、放送を取り巻く環境が大きく変化したことが大きい。視聴率が頭打ちとなり、動画配信サービスとの連動で稼ぐ時代へ。デジタル世代の取り込みを模索する中、続々と生まれたのが30分ドラマだった。中堅テレビマンは「もともとドラマは配信と相性がいいのだが、スマホで見る15分くらいの配信ドラマに慣れている世代は1時間ドラマには腰が重い傾向がある。気軽に楽しめる30分尺くらいがちょうどいい」。

放送したコンテンツに付加価値をつけて配信したり、先にリリースした配信ドラマをテレビ放送してそのクオリティーを知らしめたり。自由度が高く、枠の数だけ連動のさせ方、稼ぎ方が見込めることも、短尺ドラマが乱立するポイントだ。今回「サタドラ」枠を新設したテレ東の大庭竹修編成部長も「SNSで話題になり、TVerやParaviであらためて見ていただけるような番組を」と、狙いが明快だ。

「第9回市川森一脚本賞」発表会で。左は受賞者の倉光泰子さん
「第9回市川森一脚本賞」発表会で。左は受賞者の倉光泰子さん

30分とはいえ見応えのある作品も多い。

テレ東でいえば「フルーツ宅配便」「日本ボロ宿紀行」などテレビ賞に輝いた作品や、展覧会にまでビジネスが広がった「きのう何食べた?」、海外でも大ブームとなった「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」など話題作多数。19年に30分2本立ての“サザエさん方式”でギャラクシー賞優秀賞を獲得した日テレ「俺の話は長い」のインパクトも大きい。担当プロデューサーが「起承転結やタメ、伏線など1時間ドラマのセオリーを守ることが、もう果たして正解なのだろうかという思いにたどり着いた」と話していたのは印象的だ。

一方で、いわゆる「大作ドラマ」みたいなものの影が薄くなっていく雰囲気にはさみしさも感じる。先ごろ、「第9回市川森一脚本賞」(「アライブ がん専門医のカルテ」の倉光泰子氏が受賞)の発表会見を取材したが、候補に挙がった作品は4作にとどまり、うち2作が30分ドラマ。菅野高至選考委員長は「ドラマの尺がどんどん短くなり、30分ドラマが本当に増えた。CMを除くと正味22分。主な登場人物が2~3人ほどというケースが多く、大きな物語は作りにくくなっている」。

昨年からのコロナ禍で舞台作品が相次いで中止になり、演劇界のクリエイターがドラマ脚本に流れてきたことも、短尺枠の増加や配信ドラマの需要を支えているという。「ドラマ冬の時代といわれたころに比べれば、書く枠が増えて脚本家にとってチャンスは広がっているが、大きな世界観のオリジナルを書きたい脚本家はたくさんいるので、そちらの方にもチャンスが広がってほしいという思いもある」。

1時間×10話の世界観でがっちりハートをつかまれたいし、30分でさくっと楽しめるものも見たい。要はどちらも見応えがあるといいなと期待しながら、4月期ドラマを待ちたい。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)