1月期の冬ドラマも中盤に突入し、日本テレビ×フジテレビの“水10バトル”にどハマりしています。交響楽団というチーム戦の推進力を描いた「リバーサルオーケストラ」(主演門脇麦)と、型破り投資家の人間力を描いた「スタンドUPスタート」(主演竜星涼)で、タイプの違う痛快劇が見応え抜群です。日テレの真裏にフジが新枠を創設して4作目。ガチンコ対決の相乗効果であれば、ドラマファンとしてうれしい限りです。

水曜ドラマ「リバーサルオーケストラ」(C)NTV
水曜ドラマ「リバーサルオーケストラ」(C)NTV

◆チーム戦の推進力

日テレ「リバーサルオーケストラ」は、表舞台から消えた天才バイオリニストと、無愛想な世界的マエストロがポンコツ交響楽団「児玉交響楽団(玉響)」を立て直す人間ドラマです。

オーケストラというと「のだめカンタービレ」(06年、主演上野樹里)の印象が強烈にありますが、音大を舞台にした「のだめ」に対し、「リバオケ」は市が運営するお荷物楽団という設定。元天才、生活が回らない若手、家族の理解がない主婦など演奏者の背景がさまざまで、それぞれの壁を乗り越えるたびに音がひとつになっていく様子が感動的なのです。

演奏やBGMに有名なクラシック音楽がたくさん出てきて楽しいですし、メンバーが抱える問題が楽曲とリンクする設計もあざやか。コンマス(コンサートマスター=第1バイオリン首席)として「玉響」に加入する門脇麦さんが頑張り屋で応援しがいがあるんですよね。コンマスが替わると楽団の音が劇的に変わる極意を3分間の「ウイリアム・テル序曲」で見せたライブ感に1話からわくわく。決して高尚な別世界ではなく、人間くさい挫折と踏ん張りに背中を押されるのです。

水曜ドラマ「リバーサルオーケストラ」(C)NTV
水曜ドラマ「リバーサルオーケストラ」(C)NTV

大ホールに客を入れ、しっかり時間をとった「威風堂々」の演奏シーン(3話)や、緑黄色社会の「Mela!」の交響曲アレンジなど、スタッフとキャストの志も伝わってきます。演奏シーンを特別編集した動画がTVerで公開されているのも話題ですよね。マエストロ常葉朝陽を演じる田中圭さんもはまり役。無愛想だけれどちゃんと人を見ている優秀な色気があり、「僕のオケを評価できるのは、僕と客席の聴衆だけだ」とか、毅然(きぜん)としたリーダーシップがしみじみとかっこいいです。

門脇麦さんの妹役、恒松祐里さんが物語にしっかり機能し、姉妹と同居することになるフルート奏者、坂東龍汰さんも魅力的。全員が楽器を猛練習して臨んでおり、こんな楽団員いそうというリアリティーで受け手を物語に引っ張ってくれます。彼らが楽団存続をどう勝ち取っていくのか、玉響ファンとして見届ける気満々です。

◆型破り投資家の激アツリーダーシップ

一方の「スタンドUPスタート」は、ワケあり人材を「起業」で再スタートに導く“人間投資家”三星大陽の痛快劇。「人は資産なり」の経営哲学が明快な大胆不敵キャラを竜星涼さんが生き生きと演じ、懐の入り方、信用を勝ち取る過程、人材に合った起業コーディネートなど、この人ならではの突破力に力強いドラマがあります。

水10ドラマ「スタンドUPスタート」(C)フジテレビ
水10ドラマ「スタンドUPスタート」(C)フジテレビ

窓際銀行員、専業主婦、1度起業して失敗したワンマン社長など、扱う人材はいろいろ。それぞれの葛藤に共感できるので、相手の長所も短所も受けとめる主人公の次の一手に興味が沸くんですよね。事業計画書の作成代行からMBO(経営陣による自社株買収)まで、経営アカデミズムを難しすぎないエンタメとして見せてくれる演出もわくわくします。

人間投資家といううさんくさそうな肩書と、それを本気でやっているキャラクター性、実は財界の御曹司という育ちの良さ。チャラさと才覚を併せ持つ主人公に竜星涼さんが端正。あなたは1人じゃない、みたいなつまらない慣用句ではなく、「俺がいる。俺がいるよ林田さん!」と言い切る馬力が痛快で、見ていて巻き込まれがいがあるのです。

マンガ原作(作・福田秀氏)とあって強せりふのオンパレードなのもいいですね。「資産は人なり」を基本に、「社長病って知ってる? あれもこれも自分でやってきたと思っちゃうやばーい病気」「功績ってのは肩書じゃない。誰かと歩いてきた道のことだよ」。その人らしいせりふが輝くドラマはやはり面白いです。テーマは起業ですが、すべての働く人向けの読後感がしっかりと胸に残ります。

「リバオケ」と「スタンドUP」。どちらから見ようか毎週迷うところ。幸せな水曜日をしばらく満喫したいと思います。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)