シンガー・ソングライター結花乃(ゆかの)が、令和の最初の日、5月1日にファーストフルアルバム「結花乃譚(ゆかのたん)~金魚すくい~」を発売する。16年9月にデビューしてから2年半、待望のフルアルバムだ。新曲5曲を含む全12曲が収録されている。

結花乃は「シングルやミニアルバムだと自分を出し切れないことがある。フルアルバムは自分の世界観をしっかり表現することが出来る。このアルバムは曲で物語の世界観を作り上げた、私自身の短編集のようなものです。これからは、もっと自分の色を出した曲を作っていきたいですね」と話している。

幼稚園の頃からピアノを習っていた。高校2年の時に初めてカラオケに行って、歌う楽しさを知った。「高3の時に、最後の思い出作りにバンドを作って文化祭で歌ったら、それまでとは比べものにならないワクワクがわいてきた。そこから、歌手になりたいと思いました」。それでも浜松医科大看護学科に進学して看護師を目指した。「高3の夏前から進路が決まっていたし、歌手になれるなんて思ってもいませんでした」。大学に入ってからは、看護師の国家資格取得を目指して勉強の傍ら、病院でのアルバイトで稼いだお金でボイストレーニングを続けた。卒業して看護師になってからも、働きながらボイストレーニングを続け、路上で歌っていた。

看護師になって1年、歌手になる夢を捨てきれずに辞表を書いた。「いつかは看護師を辞めて、歌手を目指すんだと思っていました。親も『いつか、やると思っていた』と理解してくれました」。アルバイトをしながらライブハウスで歌い、オーディションを受ける日々が続いた。「作詞・作曲の勉強をしながらでしたけど、どのオーディションに行っても全然ダメ。これで最後にしようと思ったオーディションで、今の事務所の人に声を掛けられて、半年後にデビューしました」。

念願かなってデビューした。夢に見た歌手になれたが、その後も逆風は続いた。「アマチュアとしてライブハウスで歌っていた時は、私のファンじゃなくても音楽好きのお客さんが聞いてくれてました。でも、デビューしてから、毎月のようにショッピングモールのイベントで歌っていたんですけど、誰も止まってくれない。お客さんもいないし、CDも売れずに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。私のことなんか誰も知らない。どんどん自信がなくなって、つらくて、このままやっていけるのかと不安だらけでした」と振り返る。

昨年8月に転機があった。結花乃がNHK「みんなのうた」に書き下ろした「きんぎょすくい(フルバージョン)」が8、9月の2カ月間放送された。金魚すくいの金魚の視点から、命をテーマに書かれた歌詞と切ないメロディーが話題を呼んで、9月12日に第3弾シングルとして発売されてレコチョク31位に。「それまでは、私のことを知っている人だけが曲を聞いてくれていたんですけど、『きんぎょすくい』は自分の曲が世の中に流れているんだと実感できました」と笑顔を見せる。TBS系恋愛バラエティー「恋んトス」の挿入歌になり、今回収録された「一緒に未来へ」が、今年1月にデジタル配信と勢いに乗っている。

曲作りは詞先(しせん)。「思ったことをだらだらと書いたり、スマホに吹き込んでいきます。それを夜にまとめて、アップテンポだったり、マイナーコードだったりという具合に曲に仕上げていきます」。曲作りの目標は斎藤和義(52)。「以前は絢香さんやMISIAさんを目標にしていました。だけど、自分に合うのはこれじゃないと。斎藤さんが作る曲は『頑張ろう』じゃなく『そんなこともあるさ』という感じ。自分も赤裸々に思いを書いてみようと思いました」と振り返る。

作詞作曲だけじゃない。「きんぎょすくい」のシングルCDでは、和紙の切り絵と水彩画でジャケットも手掛けた。「看護師になりたいと思ったのは、高校生になって祖母が入院した時。それまでは絵本作家になりたいと思っていたんです。いつかは絵本付きのCDも手掛けてみたいですね」。歌手になったことがゴールじゃない。令和に向けて、夢は大きく広がっている。

◆結花乃(ゆかの) 静岡県富士市生まれ。浜松医科大看護学科を卒業して看護師に。16年9月ミニアルバム「花一匁」でデビュー。17年11月シングル「快速流れ星」。18年5月シングル「糸電話・ぼくらのサンセット」。同8、9月NHK「みんなのうた」で「きんぎょすくい」放送。同年9月シングル「きんぎょすくい」。19年1月「一緒に未来へ」デジタル配信。趣味は読書、水彩画、水泳。