1970、80年代の映画界をリードした角川春樹氏(77)が10年ぶりにメガホンを取る。「みをつくし料理帖」(来秋公開)で、6度目の結婚で授かった6歳の男の子にメロメロの同氏は、かつての風雲児のイメージとは正反対の人情話に取り組む。

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元歌手の明日香夫人(31)との間に男子をもうけたのは70歳の時。「小学校の父親の会を始め、息子にまつわるあらゆる会に参加しています。映画の撮影を8月にしたのも息子が夏休みだから」と、かつての剛腕プロデューサーは好々爺(や)の一面をのぞかせる。

76年の「犬神家の一族」以来、ミステリー、アクション、異色のアイドル映画と、好んでとがった題材をプロデュース、7本の作品を監督してきた。「これが最後の監督作」と断言し、選んだのはそんな心境の変化を反映してか、女料理人が主人公の人情物語だ。

「いわば『おしん』の時代劇版なんです。数々の日本料理も登場して、東京オリンピック(五輪)の年にマッチする作品」と、嗜好(しこう)は変わってもビジネス優先の考え方はそのままだ。

「みをつくし料理帖」はシリーズ計10巻で400万部を売るベストセラー。「10年前、(原作者の)高田郁さんの作品は初版500部しか刷ってもらえなかった。だが、僕は感動してそのうちの200冊を買った。本人が200冊買ったというから世間には100冊しか出回らなかった。ウチ(角川春樹事務所)から出すようになってここまできたんです」と笑う。

北川景子主演(12年、テレビ朝日系)、黒木華主演(17年、NHK)と2度のドラマ化もされていて、出版から映像に結びつける「角川商法」も健在だ。

満を持しての映画化でヒロインに選んだのは「この世界の片隅に」(18年、TBS系)の松本穂香(22)。親友役には個性派の奈緒(24)、そして2人をつなぐキーマンに中村獅童(46)がメインの配役だ。

「松本君はヅラ合わせの時に、まさにそこに澪(ヒロイン名)がいた。奈緒さんはたまたまドラマで見たろうあ者役の顔の表現がすごかった。獅童君は僕が後援会長だから」と、直感と政治力のキャスティングも往年をほうふつとさせる。

他のキャストについては「かつての角川映画の出演者からの希望が多い」という。文字通りの集大成として角川映画オールスター・キャストが実現するかもしれない。【相原斎】

◆角川春樹(かどかわ・はるき) 1942年(昭17)1月8日、富山生まれ。父・源義氏の跡を継いだ角川書店で71年から横溝正史ブームを仕掛け、映画化した「犬神家の一族」の大ヒットで角川映画旋風を巻き起こす。薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子の角川3人娘をプロデュース。93年にコカイン密輸事件で逮捕。仮出所後の05年に「男たちの大和」をプロデュースして映画界に復帰した。5人の女性との間に6度の結婚歴があり、最初の3人の妻との間にそれぞれ1人ずつ子どもがいる。

◆角川映画配給収入ベスト10

<1>天と地と(90年、50・5億円、年度1位)<2>探偵物語(83年、28億円、年度2位)<3>復活の日(80年、24億円、年度2位)<4>里見八犬伝(83年、23・2億円、年度1位)<5>セーラー服と機関銃(81年、23億円、年度1位)<6>人間の証明(77年、22・5億円、年度2位)<7>REX恐竜物語(93年、22億円、年度2位)<8>野性の証明(78年、21・8億円、年度1位)<9>メインテーマ(84年、18・5億円、年度2位)<10>蒲田行進曲(82年、17・6億円)