作曲家・古関裕而氏は怪獣映画「モスラ」でも音楽を担当しました。双子の妖精役のザ・ピーナッツが歌った「モスラの歌」は、古関氏の曲づくりの神髄が分かる名曲です。

19年のハリウッド映画「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」では、同曲の音楽性が評価され劇中で使用されました。没後30年の節目の年のハリウッド進出でした。【笹森文彦】

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「モスラ」は1961年(昭36)に公開された。水爆実験場の南国インファント島に先住民がいることを知った調査隊の悪人が、発見した小さな双子の妖精を見せ物にしようと生け捕りにする。島では放射能で巨大化した蛾(が)のモスラが神格化されていた。モスラとテレパシーで話せる妖精は助けを求めて歌った。インドネシアの方言で歌う「モスラの歌」である。

<歌詞>モスラヤ モスラ ドゥンガン カサクヤン インドゥムゥ…

54年の大ヒット映画「ゴジラ」が敵なのに対して、「モスラ」は味方のイメージ。より女性や子供を意識して製作された。国民的な双子歌手ザ・ピーナッツを妖精役で起用したのもそうだ。ただテーマは重い。本多猪四郎監督らが「モスラの歌」の歌詞に込めたメッセージは「平和こそ 永遠に続く 繁栄の道」。

古関氏は映画や舞台の音づくりで、作品の世界観を最重要視した。「モスラの歌」の1度聴けば耳に焼きつく律動。南国の民間伝承を思わせる旋律。聴く者を映像に、そしてテーマに引き込んでいく。子供向けの怪獣映画の音楽とはまったく感じさせない、古関メロディーの神髄とも言える1曲である。

2019年5月にハリウッド版の怪獣大作「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」が公開された。モスラも登場し、「モスラの歌」が古関氏の旋律のままインストゥルメンタルで使用された。マイケル・ドハティ監督は「モスラの歌もゴジラと同じぐらい大切なものだと考えています。モスラは柔らかく心をつくというか、スピリチュアル(精神的、霊的などの意味)」と話した。エンドロールには「ゴジラ」の作曲家・伊福部昭氏とともに古関氏の名もあった。「オリンピック・マーチ」(64年)で世界に知られた古関氏の、没後30年という節目のハリウッド進出だった。

○…映画「モスラ」の主題歌は「インファントの娘」で、「モスラの歌」は劇中歌だった。後者の方が圧倒的に認知度が高かったが、映画のサントラ盤という概念がまだない時代。レコードとして発売されたのは映画公開から17年後の78年。ザ・ピーナッツは75年にすでに解散していた。