今年で38回を数える「サントリー1万人の第九」が6日、大阪城ホール(大阪市中央区)で行われた。今年は新型コロナウイルスの影響で、一般参加者による合唱団も観客の入場も見送り、無観客で開催した。会場からはライブ配信した。総監督の佐渡裕氏(59)が指揮するオーケストラの実演とプロの合唱団40人、投稿動画を組み合わせて1つの音楽にする異例の合奏だった。コロナ禍で師走の風物詩も様変わりした。

この日、ホールに立ったのはソリスト4人、ひょうごプロデュースオペラ合唱団40人と兵庫芸術文化センター管弦楽団85人のみ。事前にベートーベン「交響曲第9番」の投稿動画を募集し、集まった延べ1万347本の動画を会場の巨大画面に次々と映し出した。

22回目の指揮となった佐渡氏は閉演後「すべての人が“兄弟”になる瞬間を体験した」と表情をほころばせた。

1983年に始まった世界最大規模の「第九」の合唱を行うコンサートは、大阪城ホールで毎年12月第1日曜日に開催してきた。コロナ禍の中、6月から開催するかどうかの議論を始めた。感染症対策の専門家らにも意見を聴き、当初は人数を抑え、1000人での合唱団結成を目指したが、コロナの感染再拡大を受けて合唱団の募集は急きょ中止した。伝統あるコンサートを途切れさせないため、「危険な状況を作らないこと」を最優先し、佐渡氏をはじめ関係者が知恵をしぼった。「分断社会になっているからこそ、困難の先に歓喜が待つと歌うベートーベンの交響曲九番を発信する奇跡のコンサートを実現しなければ」との佐渡氏の強い思いもあった。

テーマは「つながる」。一般参加者から寄せられたベートーベン「交響曲第9番」の歌唱動画を募集し、遠くにいても音楽で1つになることを目指した。11月末時点では動画の投稿は3000本だったが、本番が近づくにつれ、急増した。「一昨日、1万を超えたと聞いた。それを聞いたときは涙が出ました」と佐渡氏。

今年はベートーベン生誕250周年。大阪から“歓喜”の声を届けた世界的な指揮者は最後に「交響曲は苦しいときこそつながり、乗り越えて行こう!という応援歌です。ベートーベンへのいい誕生日プレゼントになった」と喜んだ。