女優の杉咲花(23)がヒロインを務めるNHKの連続テレビ小説「おちょやん」(月~土曜午前8時)は4日から「京都編」がスタートした。

物語は明治の末に大阪・南河内の貧しい家庭に生まれ、9歳で大阪・道頓堀の芝居茶屋へ奉公に出されたヒロインが、芝居に魅了され、喜劇女優となり、「大阪のお母さん」と呼ばれるまで成長していく姿を描く。戦前から戦中、戦後にかけた昭和の激動期が舞台で、上方の大女優、浪花千栄子がモデル。TBS系ドラマ「半沢直樹」の八津弘幸氏(49)が手掛ける。苦難の連続の後にどんな「倍返し」があるのか。朝ドラ初挑戦となる八津氏がオリジナル作品について語った。

浪花の自伝「水のように」を読み込んだ八津氏は、ヒロイン像について「どんな困難にぶち当たっても前を向いて生きていく、とにかく明るい千代を描くようにしています」。当初は違ったという。「浪花さんの人生は、喜劇女優にたどり着くまでに、いろいろな人に裏切られたり、孤独な部分もあったため、最初、心の中にそういうものを抱えている女性として千代を描いていました。でも、暗い部分を描き出そうとすると、かえってうそくさくなるというか、わざとらしくなる気がしたんです」。心に引っかかりを感じてからは方向転換した。

「どんな困難にぶち当たっても前を向いて生きていく、とにかく明るい千代を描くようにしています。たとえば、どうしようもないおやじのテルヲは、何度も千代のことを裏切ります。千代はそのたびにどこかで父親が今度こそちゃんとしてくれるんじゃないかと期待してしまう。そんな彼女の葛藤をきちんと踏まえた上で、前を向いて生きていく千代の姿を、うそのないように描いていきたいですね」と強い思いを語った。

八津氏は「半沢直樹」「下町ロケット」「陸王」などのドラマ脚本を手がけ、注目を集める脚本家だ。物語はダイナミックで爽快感あふれる。千代の今後の展開にも注目だ。

「浪花さんは若い頃から相当ご苦労をされていて、さまざまな出来事を経験された方だとわかりました。ですから、半年という長いスパンを使って、浪花さんをモデルにした竹井千代という女性のキャラクターをしっかり描くことが、大前提だと思っています」と心に誓っているといい、描く上で注意していることもある。「浪花さんの人生をベースに考えたとき、僕はつい、1人の少女が日本一の女優を目指してスターへの階段を駆け上がっていくような作品を書きがちなんですが、今回はそれとは少し違います。もちろん、劇中劇もたくさんありますし、千代が厳しい師匠と出会ってみっちりしごかれるとか、劇団同士の競り合いが展開するといった話が出てきますが、彼女がスターになることがこの物語の中心ではありません」と話し、ヒロインの喜劇女優としての「原点」ついて「千代が芝居をしたいと思う理由は、ただただまわりの人々を喜ばせたい、元気にしたいからです。そしてそれは、彼女が家族に恵まれない日々を送ってきたという、それまでの生い立ちに絡んで生まれてきた願いだと考えているからです。だから、芝居や演劇の周辺でも、いつもさまざまなことが起きていて、千代は芝居を続けていく中で、芝居以外の問題も乗り越えて成長していく。そんな物語になっています」。

朝ドラは毎回15分の中にヤマ場が必要とされ、脚本を書く前には周囲から「八津さん、1話15分のペースは本当に難しいですよ」と言われた。「実際に書き始めてみたら、そんなことはありませんでした。実は僕は以前、週刊誌で漫画の原作の仕事などもやっていたのですが、そのペースに近い感覚があるんです。15分の中に毎回ちょっとした山を作っていくのは楽しいですね。毎日盛り上げすぎるのは“朝ドラ”に合わない気もしたのですが、結果的には良い方向にはたらいている気がしています。どうせ書かせていただくのですから、習慣で見ていただくのではなく、毎日本当に面白くて、どうしても見たくて見てもらえるような作品にしたいんです。そう思いながら、書いています」。 さまざまな困難を乗り越え、千代は喜劇女優の道を駆け上がっていく。

「この作品には、喜劇というファクターがどうしても外せません。喜劇って何なんですか? と問われると、人間のダメさ加減、滑稽さを描き、最後はほろっと泣けて、優しい気持ちになれる、それが喜劇かなと思っています。だからこそ千代も、自分が喜劇をやることでお芝居を見た人が元気になってくれたらと思っているわけです。ですから、この作品でも、喜劇のそういうところが見ている方に伝わるといいなと思っています」

新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)で日本は経済、社会で大きな打撃を受けた。新年はコロナ禍をそのまま持ち越して明けた。

「最近、世の中はSNSでもすぐに批判が起きたりして、とげとげしい時代になっていますよね。それが僕はすごく嫌なんです。人間はそんな完璧な人ばかりではないですし、ダメな人もいる、それでもみんな頑張って生きている。そういう人に対して許してあげられる優しさみたいなものを、みんなで持てたらいいなと思っているんです。この作品に出てくる役者たちはみんな本当にダメダメなキャラクターばっかりです(笑い)。役者だけでなく、千代の家族も、千代が道頓堀で出会う人々も、みんなちょっとひと癖あるキャラクターばかり。でもどのキャラクターも、みんなどこかに必ずいい部分も持っている。そんな登場人物たちを見て、皆さん、笑ったり泣いたりしながら、ちょっとでも優しい気持ちになってもらえたらいいなと思っています」

これからも、千代は大変なことに出合っても、笑顔で乗り越えていく。