「コロナにかかった芸能人のニュース、もう勘弁して欲しい」

そんな声が、周囲やインターネット上から聞こえてくる。3度目の緊急事態宣言が、発出から2度の延長を重ね、1カ月以上も続いているのだから、無理もない。

その上、SNSや芸能事務所からのファクスなどで情報が流れた途端、芸能メディアをはじめ複数の媒体が、われ先にとばかりにインターネット上に相次いで速報を出し…情報の受け手の立場になったら、うんざりするのも分かる。

記者も、芸能人が新型コロナウイルスに感染した件の原稿を日々、出している。もちろん、公式発表をベースに書いているのだけれど、当該芸能人の所属事務所とお付き合いがあったり、関係先と連絡を取ることが可能な場合は、発表がよほど詳細なものでもなければ、取材してから書くようにしている。

そうすると、公式発表にはない、いろいろな事実が判明するものだ。その好例が、パパイヤ鈴木(54)だ。鈴木の所属事務所は7日午後7時にツイッターで

<1>発熱があってPCR検査を受けた結果、5日に陽性と診断

<2>発熱の症状を確認後、自主隔離を行い、他者との接触を避けていたため濃厚接触に該当する人はいない

旨の文書を発表。その発表を受けて、社内から原稿執筆の発注があった。

記者は以前から鈴木を何度も取材したことがあり、所属事務所とも懇意にしていた。発表を見て、原稿を書く、書かない以前に、鈴木のことが心配になって、関係者に電話した。

<1>10年に刊行したダイエット本「デブでした。」の中で、100キロ超だった体重を約1年3カ月で33キロ落とすダイエットを行ったが、それ以前は健康診断で示された数値が良くなかったこと

<2>年齢が54歳であることを考慮し、重症化していたら…

と懸念したからである。

酒は好きで連日、飲むとは聞いていたが、ド派手で奔放な言動とは裏腹に、周囲に非常に気を使う、きまじめな人柄であることも知っていたので、コロナ禍の中、外で飲むようなことはしないとも思っていた。案の定、コロナ禍が広まりだした頃から一切、外では飲んでいなかったという。

さらに、振り付けをはじめとした仕事は基本的にリモートで行い、YouTubeチャンネルの撮影の際も、検温はもちろん感染予防対策を徹底していたという。担当マネジャーとのやりとりも電話やリモートが中心だったため、濃厚接触者はいなかったという。

その上、鈴木は感染しただけでなく、高熱だったため入院していたことも判明した。そこまで感染予防対策を徹底していても、入院に追い込まれるとは…新型コロナウイルスの恐ろしさを再認識させられた。

芸能人は、一般市民からすると生活や行動が派手だったり奔放に見えるというのもあるだろうが、新型コロナウイルスに感染したと公表するたびに、インターネット上でたたかれるケースが少なくない。鈴木の場合、同じ事務所に所属するLiLiCoとユニット「パパイヤ鈴木とLiLiCo」を組み、2012年(平24)2月にシングル「飲んで飲んで」をリリースしたり、飲食系の番組で飲んでいる姿が広く知られていることもあり、そうしたイメージから、なおさら誤解を招きかねないと思った。

だから、鈴木が感染予防対策を徹底していたという事実関係は、きちんと報じた方が良いと考えた。何より、ここまで感染予防対策を徹底しても鈴木が感染したことを報じることで、一般にさらなる感染予防対策の徹底の必要性を感じてもらえるなら、報じる意義はあると思った。

また、鈴木は8日にプロダンスリーグ「D.LEAGUE」で審査員を務める予定だったが、見送りとなったことを含め「関係各位に、すごいご迷惑をかけてしまっている。申し訳ない」と猛省しているという。そのことも原稿には盛り込んだ。

インターネット上に原稿がアップされて以降、幾つかのコメントが寄せられている。その多くが、鈴木の感染予防対策は妥当なものであるというもので、中には自らの感染予防対策を見直そうというものもあった。また、ここまで感染予防対策を徹底しているのだから、謝罪しなくてもいいのでは? との声もあった。

今回の鈴木に限らず、記者が平素、お付き合いがあったり取材で関係性のある芸能事務所の多くは、所属タレントの感染が判明した場合、取材には真摯(しんし)に対応し、中には先方から連絡をくださることも少なくない。聞いた情報を正確に伝えることで、当該芸能人のファンをはじめとした一般の人々が誤解を招くことを避け、その上で感染予防対策の重要性が伝わるなら、芸能人のコロナ感染を報じるニュースは意義があると考える。

新型コロナウイルスが発生した昨春は中国・武漢市から帰国した邦人191人を受け入れた千葉県の勝浦ホテル三日月や、乗客が新型コロナウイルスに感染し横浜・大黒ふ頭に接岸したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号から都庁など官公庁まで、関係各所を連日、取材していた。その経験を元に、芸能人のコロナ感染のニュースも、少しでも意義のある形で報じていきたい。【村上幸将】