5月30日に心不全で亡くなった小林亜星さん(享年88)は俳優としても存在感を放った。

代表作は74年の主演ドラマ、TBS系「寺内貫太郎一家」。下町の石材店を舞台にしたホームドラマで、頑固な父親、貫太郎を演じた。演技経験ゼロで参加した同作が、亜星さんのイメージをつくった。長髪にベルボトムのファッションだった亜星さんは、故久世光彦プロデューサーに理髪店に連れて行かれ丸刈りに。さらに法被を着た姿を見て、脚本の故向田邦子さんが「これが貫太郎よ」と納得したという。

亜星さんは「多忙なフランキー堺さんと高木ブーさんに断られ、他にいなかった。TBSのドラマ音楽の仕事をしていた私に話が来た」と語っていた。芝居のストレスで体重が増加した。それでも、ちゃぶ台をひっくり返し、故西城秀樹さんが演じる息子を殴りつけるなど頑固おやじを体現。みるみる評判になり、平均視聴率31・3%を記録する国民的人気となった。

5年前のインタビューで亜星さんは、当時のことを「生きた心地がしなかった」と振り返りつつも「今は一家だんらんがなくなった。今の方が貧しい。『貫太郎』の時代は心が通じていた。みんな仲良く生きようという気が少しでもあればと思う」と話していた。

同作を皮切りに、俳優としても活躍した。ドラマ版のフジテレビ系「サザエさん」では磯野波平を、NHK連続テレビ小説「さくら」ではヒロインの祖父を演じた。79年には劇団未来劇場の舞台にも出演。厳しくも優しい役柄が多く、大きな温かさを感じさせた。

またテレビ朝日系「象印クイズ ヒントでピント」で3代目男性チームキャプテンを務め、TBS系「わくわく動物ランド」にも出演するなどクイズやバラエティー番組でも活躍した。

実は亜星さんは芝居に縁のある人だった。母は築地小劇場の劇団員、父は劇作家を目指したこともあった。また、親戚には故大滝秀治さんがいる。

◆「寺内貫太郎一家」 1974年(昭49)にTBS系で放送されたホームコメディー。脚本は向田邦子さん。3代続く「寺内石材店」を舞台に、カミナリおやじとその家族が織り成す日常を描いた。翌年に「-2」を放送。その後単発ドラマとしても放送された。亜星さんのほか悠木千帆(樹木希林さん)、加藤治子さん、西城秀樹さん、由利徹さん、浅田美代子、藤竜也らが出演。