市川海老蔵(43)が「七月大歌舞伎」の第3部「雷神不動北山櫻」で、2年ぶりに歌舞伎座に出演する。

このほど日刊スポーツなどの取材に応じ、歌舞伎座出演への思い、歌舞伎界への提言などを語った。同興行は7月4~29日、第3部のみ4~16日。

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コロナ禍がなければ昨年5~7月は歌舞伎座で13代市川團十郎白猿の襲名披露興行だったが、襲名は延期になった。19年7月以来の歌舞伎座出演は冷静に受け止めている。

「うれしいというより、懐かしいという感じです。楽しみとか高揚するとか、きれい事だけではない」

出演していない時も歌舞伎座をたびたび訪れ、取材前日にも舞台を見ていた。すべてが勉強だという。危惧も口にした。

「演技はもちろん、お客さまの入り、年齢層をチェックしたり。ありがたいことに歌舞伎座は年齢層が高い。危機感はものすごくあります。コロナにバチンと当たり、ご高齢の方は来づらくなりますから。普段見ていた方が戻ってくださるのか、新しいお客さまが見られる環境ができるのか。制作陣も考え、役者も応えることが重要です」

厳しい状況の中、出演する第3部「雷神不動北山櫻」の売れ行きは好調。しかし歌舞伎界全体を思うと安心感はない。

「ホッとはしてません。自分がいいからいいっていうものではない」

同演目への思いは強い。2代目市川團十郎が初演、海老蔵が08年1月の新橋演舞場公演で、新たな構想、脚本で練り上げた。空中浮遊に立ち回り、5役を演じる。

「きちんとした座頭として小屋(=劇場)を背負った出世作と言ってもいい。もともとやる気スイッチが入っていましたが、加速スイッチが入った演目です」

長男堀越勸玄君(8)の成長はめざましい。共演した明治座、京都南座「海老蔵歌舞伎」を振り返った。

「何かが開花して子役じゃない演技をしだした。強敵現れたな、身内で良かったと思いました」

手放しで褒めるのではない。勸玄君に戦う姿勢を感じ、歌舞伎の未来を見る。

「私も含め、我々は箱の中で育っている。戦ってますが、戦っている風なんです。でも僕は戦いたい。人が何と言おうと、世の中が何と言おうと、僕は戦いたい。そういうDNAを彼は持っている。彼らの時代に歌舞伎が奮起することを考えたい。見ていただく経験をしてもらうこと、既存のお客さまにも見ていただくことが歌舞伎の未来につながる」

新作歌舞伎、若手の公演、SNSやYouTube。さまざまな挑戦は歌舞伎の未来を考え、戦う姿勢を持ち続けるからこそだ。【小林千穂】

◆市川海老蔵(いちかわ・えびぞう)1977年(昭52)12月6日、東京生まれ。83年5月歌舞伎座「源氏物語」の春宮で初お目見え。85年5月歌舞伎座「外郎売」の貴甘坊で7代目市川新之助を名乗り初舞台。04年5月歌舞伎座「暫」の鎌倉権五郎などで11代目市川海老蔵を襲名。自ら企画した「ABKAI」「古典への誘い」などでも、歌舞伎ファンの裾野を広げる。映像分野でも活躍。14年から植樹プロジェクト「ABKAI」を実施。父は12代目市川團十郎、長女は市川ぼたん、長男は堀越勸玄君。

◆雷神不動北山櫻(なるかみふどうきたやまざくら) 歌舞伎十八番の「毛抜」「鳴神」「不動」の3作品が織り込まれている。平安時代を舞台に、帝位継承をめぐるさまざまな人物が登場する。鳴神上人、早雲王子、陰陽師(おんみょうじ)の安倍清行。ほか粂寺弾正、不動明王を含め、5役を演じる。江戸時代に2代市川團十郎が初演、当時は3役をつとめ当たりをとった。