先日、ある企業のCM会見を取材した。芸能界の記者会見は従来、映画やドラマ、舞台など、いわゆるエンタメ本筋の記者会見が多かった。だが昨今、今回のようなCM発表会見や新商品の発表会見、新商品を売り出すためのイベントの会見などなど、芸能記者が出席するいわゆる記者会見の幅が広がっている。

現在はコロナ禍ということもあり、エンタメの会見でも、記者による質疑応答が、なかなかできづらくなっている。いわゆる、MCが記者代表として、一手に質問を引き受けるシステムだ。ただ、これだと、記者は、会見の模様を眺めているだけになってしまう。せいぜいできるのは、答えるときの芸能人の表情の観察ぐらいだ。当該の芸能人に質問することができないので、仕方なく、周辺取材に頼ることになる。

コロナ禍前から、このようなシステムを採用してきたのが、CM会見など、スポンサーが主導する記者会見だ。登場する芸能人に、想定外の質問を浴びせてほしくないという思いからなのだろう。そのCMなり、商品をアピールするための会見なので、そういった意向は理解できる。

もしも、それが嫌ならば、会見に出席しなければいいだけの話だから。

前置きが長くなってしまったが、先日、そんなCM会見を取材した。ネット通販大手のジャパネットが同社の企業CMと特別版ショートムービー制作。その発表会見に、CMに出演した吉瀬美智子(46)が出席した。CM内容が「挑戦の過程の中に価値を見いだす」というテーマでもあることから、東京五輪で100メートルハードルに出場した寺田明日香も出席した。

同CMは、吉瀬演じる母親と息子がともに中学受験に挑み、失敗したものの前を向いていくというストーリーで、ほか2組の親子の人間関係も描かれる。

吉瀬は「いつもはクールな役とかお金持ちの役が多かったのですが、今回は今までの役を削除することを求められました。普通のお母さんに見えるようにメークも薄くしました。ショートフィルムを撮っている感じで、みんなで作り上げた作品です」と話した。

テレビCMは30秒から90秒のバージョンになっているが、WEBでは7分強の映像を見ることができる。吉瀬がいうように、まさにショートムービーと言える作品だ。メガホンを取ったのは映画「すばらしき世界」「ゆれる」などで知られる西川美和監督。吉瀬も会見で、西川組に参加できた喜びを語っていた。

ジャパネットは、今回だけではなく、以前から、TOKIO国分太一を起用したショートムービーを製作してきた。企業がお金を出すので、宣伝色が全くないかといわれれば否定はできないが、それよりも、伝えたいメッセージがしっかりとつまっている作品だ。今回の吉瀬主演の作品も、心に残る、いろいろと考えさせられる内容になっている。

CM文化は、お金をいただいて流すという構造上、どうしても通常のエンタメ作品と比べると、低く見るというわけではないが、取材する側の温度感が低くなるのは否めない。それでも、さまざま環境の中で、いいものを世の中に発表したいという、ジャパネットの気概というか企業理念は素晴らしい。敬意をもって、拍手を送りたいと思う。【竹村章】