松本幸四郎が、東京・歌舞伎座「九月大歌舞伎」の第2部で、名作「近江源氏先陣館 盛綱陣屋」に挑んでいる。

同部は、新型コロナの陽性者が確認されたことで5日遅れで開幕した。初日を前にしたオンライン取材会で、幸四郎は「開く日は必ず来ると信じていました。昨年から、毎日、毎日、今日で終わりじゃないかという積み重ねで歌舞伎公演ができている。1日1日という気持ちを今まで以上に強く持って務めたい」と話した。

その意気込みの通りの熱演だった。「盛綱陣屋」は、敵味方に分かれた武士の兄弟に起こる策略や悲劇を描いた名作。真田兄弟の史実を鎌倉時代に置き換えた。幸四郎が演じる主人公の盛綱は気品と大きさ、情けを併せ持つ魅力的な人物だ。

これまで父松本白鸚、叔父中村吉右衛門が何度も務めた役でもある。療養中の吉右衛門への思いも語った。例年、9月の歌舞伎座興行は、初代中村吉右衛門をたたえる秀山祭が行われる。コロナ禍ということもあり秀山祭とは銘打たれていないが、ゆかりの演目の上演だ。幸四郎は「自分の心の中では、秀山祭の月だと思っています。(叔父は)療養中ですので、戻ってくれるまで9月の歌舞伎座公演は秀山祭だと思っている。今月は特に強く思って務めたい」と話した。

さまざまな思いを込めている。幸四郎が「舞台に立ちたいという個人的な思いではいけない。歌舞伎を見たいと思う時、必ず開いている状態にするのが自分の役目。それを信じるのみ」と話すように、歌舞伎界全体を見る言葉が印象的だった。