毎年末恒例となった漫才日本一を決める「M-1グランプリ2021」は、12月19日に行われ、テレビ朝日系で生放送される。年々、吉本興業所属以外のコンビが力をつけ、勢力を拡大しているが、今年は「吉本VS非吉本」の構図がより一層鮮明になった。

決勝進出を決めた9組のうち、過去最多4組が吉本興業所属以外の「非吉本」。準決勝で、人気コンビが多く涙をのみ、その激戦ぶりを物語っている。

M-1は01年に吉本興業が立案し、漫才師として出発した島田紳助さんが「恩返し」の意味を兼ねて賛同。大阪の老舗放送局で、お笑いグランプリを長年続けており、賞レース実績のあるABCテレビとタッグを組みスタートした。

関西には上方漫才大賞や上方お笑い大賞と、演芸、漫才の功労を評価する賞は古くから多くあったが、M-1は結成10年以内(当時)の若手にターゲットを絞った。注目された初回大会は、吉本の中川家、松竹芸能のますだおかだと、ともに上方伝統芸「しゃべくり漫才」を軸にした両雄の対決との見方もある中、中川家が初代王者に輝いた。

漫才=上方しゃべくりの基礎、ここまでの上方演芸の道筋を確認するかのような大会としてスタートした。ブラックマヨネーズ、チュートリアルらもそうだったが、大阪発コンビがM-1で優勝し、全国区へ-の道筋にもつながっている。

その後はM-1も“進化”。決勝進出者も、シチュエーションを含めて話芸全般へと多様な芸が評価されるようになり、大阪発コンビ以外の躍進も顕著になった。常設劇場を多く持つ吉本芸人に負けじと、「非吉本」コンビも腕を磨き、年々、激戦を極めていき、9組中4組が「非吉本」の今年の大会へと至っている。

加えて、近年は東西格差も変容している。今回、漫才の本場・大阪の吉本所属コンビは2組。その「もも」「ロングコートダディ」ともに、決勝初挑戦で頂点へ挑む。【村上久美子】

M1王者を狙うもも。まもる。(左)とせめる。=写真提供は吉本興業
M1王者を狙うもも。まもる。(左)とせめる。=写真提供は吉本興業

漫才日本一を決める「M-1グランプリ2021」は、12月19日にテレビ朝日系で生放送される。今年の決勝進出9組のうち、制作の大阪・ABCテレビとともに大会をスタートさせた吉本興業に所属しない「非吉本」は4組に達し、話題を呼んでいる。加えて、漫才の本場・大阪吉本からは「もも」「ロングコートダディ」の2組だけ。結成5年目で、出場中“最若手”の「もも」は、上方しゃべくり王道の夢路いとし・喜味こいしを目標に、M-1へ挑む。かける思いを聞いた。(取材・三宅敏)

▼▼後編にM1全大会の「吉本VS非吉本構成比」▼▼

吉本?非吉本?M-1グランプリ歴代決勝組所属
吉本?非吉本?M-1グランプリ歴代決勝組所属

昨年まで3年連続で準々決勝敗退。ことしは準決勝を乗り越え、一気に初の決勝進出を決めた。

「もも」は金髪にひげがトレードマークのまもる。(27)と、めがねが特徴的なせめる。(28)のコンビ。M-1グランプリがスタートした2001年(平13)は、2人とも小学生だった。

「気がついたら必死でM-1を見てました。漫才が大好きで、M-1チャンピオンにあこがれています。漫才は一生続けていきたいので、M-1優勝はそのためのチケットだと思ってます」と、せめる。は漫才愛を語る。

相方のまもる。も「M-1は人生そのもの。どうせやるなら一番でなくちゃ。マイクの前から一歩も引かず、しゃべりだけで笑(わら)かしたい」と決勝での戦いを見据えた。

1年365日が漫才漬け。2年前にM-1準々決勝で敗退した際は「(365日で負けたなら)来年は366日ネタ合わせするしかない」と宣言。たまたま翌年(2020年)が、うるう年だったこともあり、その言葉をしっかり守った。もちろん、ことし2021年も漫才どっぷり。11月末で、ともにアルバイトを辞め、今はその時間もひたすらお笑いを追求している。

まもる。は「人生を変えるには、自分も変わらないと。M-1で勝つ自信はあります。周囲(のライバル)は眼中にありません」と不退転の決意だ。

「(アルバイトを辞めて)いまは100%舞台に集中できます。1年かけて練り上げた漫才なので、他の誰にも負けたくないし、僕らより売れている人が優勝しても、それじゃ面白くないやないですか」と、せめる。も胸を張る。

17年のコンビ結成からわずか5年目。決勝進出を決めた9組の中では、年齢も一番若い。そんな2人のあこがれは、上方漫才のレジェンド、夢路いとし・喜味こいし。03年まで60年以上にわたって、上方王道の「しゃべくり漫才」を演じた兄弟コンビだ。

西川やすし・横山きよしもオール阪神・巨人も、大阪の漫才コンビはすべて彼らの影響を強く受けていると言っても過言ではない。

まもる。は小学生の頃、テレビで偶然「いとこい漫才」を見て衝撃を受けた。「小さな子どもが見ても、とにかく面白かった。衝撃だった」。

せめる。はNSC(吉本総合芸能学院)の授業で大先輩の存在を知った。「何十年も前の漫才なのに、いま見ても笑ってしまう。警官が怪しい男に職務質問するやりとりなんて、すごいボケ。面白すぎる」。そのいとし・こいしの漫才は大阪市の無形文化財にも指定された。つまり「国宝」ならぬ「市宝」の芸だったわけだ。

「僕らも狙います。マジですよ」

上方漫才の最高峰にあこがれる2人の十八番は「○○顔漫才」。

もしタイムマシンに乗ることがあったら「小学生の頃、皆で育てていた花を枯らしたことがあったので、(その時代に戻って)水をやりたい」と優しい心を見せるまもる。に対し「なんでやねん。花壇を踏みつける顔やろ!」と、せめる。が“ヤンキー顔”の相方に突っ込む。

ある日、まもる。が金髪に染めてきたことがきっかけで生まれた、このスタイル。互いの顔の特徴を突っ込み合うパターンで、ボケが次々入れ替わり、爆笑を呼び込む。M-1決勝でも、この必殺技で栄冠を目指す。「20代で優勝したらカッコイイし、後に続く下の子らの励みにもなるでしょ?」と声をそろえた。

2人の夢はM-1チャンピオンを奪取した後も終わらない。「M-1に優勝することができても、次の年はまたエントリーしたい。その次も、そのまた次も。そのうち『もうM-1の殿堂入りして』と言われるまで漫才したい」とせめる。はどこまでも意欲的。

一方のまもる。も「とことん付き合っていきますよ。お互い年齢を重ねて髪が薄くなっても、おじいさんになっても、漫才をできたら何よりうれしいですから」と同調した。

◆もも せめる。(93年7月14日、松山市生まれ)まもる。(94年2月27日、京都市生まれ)は、ともにNSC(吉本総合芸能学院)35期。17年1月1日結成。前コンビ名は「琴線(きんせん)」も、読みにくさから改名。せめる。は黒髪とめがねが特徴で、血液型B。まもる。は金髪とひげがトレードマークで、血液型A。

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