濱口竜介監督(43)の「ドライブ・マイ・カー」が、日本映画作品賞、日本映画監督賞(『偶然と想像』も含む)、日本映画脚本賞(大江崇允氏=41と共同)、三浦透子(25)の助演女優賞、読者選出日本映画監督賞の5冠を受賞した。濱口監督は、8日にノミネート発表が迫る米アカデミー賞のオスカーより重いトロフィーを両手に持ち「作品賞のベスト1。トータルに、しかもキネマ旬報さんに選んでいただき、うれしい。(トロフィー)2本…腕がちぎれそうな重み」と口にして満面の笑みを浮かべた。

「ドライブ・マイ・カー」は、21年のカンヌ映画祭で邦画史上初の脚本賞を受賞したほか、米ゴールデングローブ賞では市川崑監督の「鍵」(59年)が60年に旧名称の外国語映画賞を受賞して以来、邦画で62年ぶりに非英語映画賞を受賞。全米批評家協会賞でも作品賞、監督賞(「偶然と想像」と併せて)、脚本賞、西島秀俊(50)がアジア人初の主演男優賞と主要4冠を獲得している。

司会の笠井信輔アナウンサーから米アカデミー賞ノミネートについて聞かれると「なりゆきなので、そういうことがあったら、ありがたい。今の時点で評価いただいていることがうれしい」と語った。その上で「賞で作品が変わるわけではない。自分たちが何が出来て、何が出来なかったと心に留めているのが大事」と強調した。

「ドライブ・マイ・カー」は、村上春樹氏(72)が13年11月発売の「文芸春秋」12月号に発表した短編で、同誌14年3月号まで連続で掲載した「女のいない男たち」と題した連作の第1弾。14年の短編小説集「女のいない男たち」(文春文庫刊)に収められており、濱口監督は同作に加え「女のいない男たち」に収録された6編の短編の中から「シェエラザード」「木野」のエピソードも投影し、脚本を作り上げた。

物語は舞台俳優で演出家の家福(かふく)悠介(西島)が満ち足りた日々を送る中、脚本家の妻音(霧島れいか)が、ある秘密を残したまま突然この世からいなくなってしまう。その2年後、喪失感を抱えたまま生きる家福は、演劇祭の演出で向かった広島で、寡黙な専属ドライバー渡利みさき(三浦透子)と出会い、1度は拒否するも受け入れ、ともに過ごす中で、それまで目を背けていた、あることに気づかされていく心情を描く。

濱口監督は、米国での反響が大きいことについて「これほど、広がっていくということは、とても驚いています。米国の方に、これほど受け入れられるとは想像していなかった」と感想を口にした。その上で「1番は、物語そのものの普遍性…村上春樹さんが描かれた。喪失から、どうやって生き直して希望を持っていくのか…短編を映画にする時、指針にした。村上さんの物語世界を映画化した。その普遍性が受け入れられているのではないか? 許可をいただく時に書いたのは、役者さんの感情を守るのを第一で、作りますと書いた。それが変わらない指針だった」と村上氏の原作を映画化するに当たっての指針を語った。