映画配給東風は28日、2019年(平31)に公開した映画「主戦場」の一部の出演者が、上映差し止めなどを求めてミキ・デザキ監督と同社を訴えた訴訟の控訴審判決が28日、言い渡され、原告らの訴えをすベて棄却する判決が下されたと報告した。デザキ監督は、東風を通じて「3年にわたる訴訟も今年1月の一審に続き9月の控訴審でも勝訴しましたので、安心してご覧ください。今後ともよろしくお願いします」とメッセージを発表した。

東風は、公式サイトに以下の文書を発表。

「ミキ・デザキ監督と配給会社東風に対して、映画『主戦場』出演者の一部が、映画の上映禁止や損害賠償などを求めた裁判の控訴審のご報告です。本日2022年9月28日、知的財産高等裁判所(控訴審)にて、東海林保裁判長によって次のとおり判決が言い渡されました。

主文

1.本件控訴をいずれも棄却する。

2.控訴費用は控訴人らの負担とする。

3.この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

今年1月27日の一審につづき、控訴審でも原告らの訴えをすベて棄却する判決が下されましたことをご報告するとともに、これまでご支援くださったみなさま、弁護団のみなさまに、あらためて心より感謝を申し上げます」

「主戦場」は、デザキ監督が慰安婦問題について日韓両国や米国から30人の有識者、論客、関係者30人に取材したうち27人のインタビュー、過去のニュース映像、国会での安倍晋三首相の答弁、元慰安婦の証言など多数の映像を交え、この問題における論争を浮き彫りにした作品。18年に韓国・釜山映画祭ドキュメンタリー・コンペティション部門に出品され、日本でもミニシアター系のドキュメンタリー映画や劇映画などの配給を行う東風が配給し、19年4月20日に封切られた。

ただ、一部の出演者が、同監督が上智大大学院生として学術研究を目的にドキュメンタリーを取材したいと申し入れたので、取材を受けたにも関わらず、商業映画として上映された上「歴史修正主義者」「歴史否定論者」などのレッテルを貼られたなどと主張。上映の差し止めと計1300万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。

原告の主張に対し、デザキ監督は当時「インタビューを撮る時、相手(取材対象者)には『大学院の研究プロジェクトですけど、完成した映画は出来たら映画祭とか、僕の大学で公開する希望がある。一般公開もあるかも知れない』と伝えてあった」と語っていた。

ただ、封切り後も議論や騒動が絶えなかった。19年11月4日まで川崎市で開催された「KAWASAKIしんゆり映画祭」で上映が決まっていたが、裁判係争中の作品であることから、主催のNPO法人KAWASAKIアーツに対し、共催の同市が上映に対する懸念を示したことを受けて、同10月27日に上映の見送りが発表された。その判断に対し、表現の自由の侵害ではないかと議論が起こり、報道各社も取り上げる大問題に発展。映画祭側は同11月2日に中止を撤回し、最終日の同4日に上映した。

控訴審判決が出たことを受けて、映像配信プラットホーム「MIRAIL(ミレール)」での先行配信が決まった。デザキ監督は「いよいよ!『主戦場』のデジタル配信を開始します!長い間お待たせして申し訳ありませんでした!ご自宅で映画を観て、お友達やご家族と共有できるようになると思うと、とても楽しみです」とコメントした。