東京・半蔵門の国立劇場、国立演芸場が、老朽化などにより再整備を行うため、10月末をもっていったん閉場する。歌舞伎や文楽などで親しまれてきた国立劇場は開場から57年。大劇場では、歌舞伎公演最後の演目となる「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」が9~10月の2カ月をかけ上演される。閉場まで約2カ月となり、劇場運営や公演を手がける日本芸術文化振興会の大和田文雄理事には担ってきた役割や、新しい劇場の展望を聞いた。【小林千穂】

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校倉(あぜくら)造のどっしりと重厚感のある国立劇場は1966年(昭41)11月、伝統芸能の上演や伝承者の育成などを目的に開場した。歌舞伎、文楽、能、狂言、仏教音楽である声明(しょうみょう)など伝統芸能を広く伝えるために、同劇場ならではの上演形式や演目が観客を楽しませてきた。

歌舞伎を例にすると、1つの狂言(演目)の最初から最後までを上演する「通し」での上演形式や、なかなか上演されなくなった狂言を掘り起こす復活狂言が知られる。国立劇場が「通し」を大切にしてきたのは、歌舞伎に予備知識がない人にも物語を楽しんでもらうため。長い物語を見ること=通ではない。大和田氏は「物語に起承転結があって、予備知識なくても内容が分かる。初心者、入門者にも親しんでもらいたいという方向です」と言う。節目の年には、人気の通し狂言が2~3カ月にわたり上演されてきた。復活狂言は、歌舞伎のレパートリーを広げるためで、時代ごとの好みに対応できるようにしているという。

そのほか、30分ほどの解説を付けた歌舞伎、文楽での「鑑賞教室」も、国立劇場ならでは。歌舞伎では、夜開演の「社会人のための鑑賞教室」、外国人向けの「Discover KABUKI」と広がりを見せている。国立劇場と社会との距離などを考える中で始まった企画で、大和田氏は、今後も社会とのつながりを考え続けなくてはいけないとする。

培ってきた公演形式は新しい劇場にも引き継がれるという。さらに、新しい劇場の理想像について大和田氏は「伝統芸能の入り口になるような場所にしたい。劇場とは別に体験型のオープンスペースがあったり、ミニパフォーマンスが見られたり。ちょっと行ってみたら邦楽が聞こえ、舞踊をやっているというような場所を作りたいです」と語った。

■通し上演は96年以来

初代国立劇場で上演される歌舞伎の最後の演目が9~10月の「通し狂言 妹背山婦女庭訓」だ。9月は中村時蔵が「吉野川の場」で、女形最高峰の難役の1つと言われる太宰後室定高(さだか)に初役で挑む。同演目の通し上演は96年以来となる。時蔵は「この先いつできるか分からないような狂言ですので、大事につとめたい。9、10月に『妹背山-』ができるのは大変有意義だと思います」と語っている。公演期間は9月2~26日。10月は「妹背山-」の「三笠山御殿の場」を中心に、尾上菊五郎らが出演する。閉場の式典も開催予定。

■再開場時期は未定

8月に行われた再整備事業の2回目の入札が不落札に終わったため、29年秋ごろとしていた再開場は未定となった。現在の国立劇場閉場中は、都内の別のホールで主催公演を行う。12月の文楽鑑賞教室はシアター1010、来年1月の歌舞伎公演は新国立劇場中劇場で行う。そのほか、新国立劇場小劇場、日本青年館ホール、国立能楽堂、サンパール荒川でも主催公演が行われる。

■見えない部分が老朽化

建て替えはもったいない、まだ使えるのではという意見もあるが、見えない部分の老朽化が激しいという。大和田氏によると、給配水管がコンクリートに直接埋められているため、補修のためには壁を壊す必要がある。雨漏りもあり、回り舞台のレールも開場当時のままで老朽化が激しい。57年前と比べ、日本人の体格も変わり、外国人観光客も増加したことで、座席の狭さも指摘されることが増えた。補修では対応しきれなくなった部分が大きいという。