SFの父と称されるH・G・ウェルズが、1897年に発表した「透明人間」は、ウィリアム・S・ギルバートの詩の一節「不可視の危険性」に着想を得たと言われる。

1933年の映画化では、この危険性の部分を強調してホラー色が強められた。20年のリプート作品では「薬品による変身」が、現代風に「光学迷彩によるステルススーツ」にアレンジされたが、ホラーの色彩はそのままだった。

28日公開の「見えない娘 THE INVSIBLES」は、透明人間を題材としながら、180度趣を変えたヒューマン・コメディーだ。

父と三姉妹は離島でひっそりと暮らしている。末娘のひかりが生まれつき「透明人間」だからだ。そんな境遇でも娘たちを朗らかに育てた母が病死した後、心配性の父はいっそう用心深くなっている。そこに東京に住む大女優の祖母が入院したという知らせが届く。

祖母には末娘のことを伏せたままだが、姉妹の懇願に父は祖母に面会するために家族4人で上京することを決意する。

「見えない」末娘は、いない振りをしても父の予想どおりに世間にさざ波を立てる。そんな波乱の道中の末、ようやく祖母との対面が実現するが…。

20年版「透明人間」の微細な描写が頭にあるので、末娘の着衣などはどうなっているのだろうか、などと素朴な疑問も湧く。が、竹林亮監督=夏生さえり共同脚本のコンビによるほんわかとした空気感がそんなやぼな考えを払拭(ふっしょく)して、いつの間にかファンタジーの世界にいざなってくれる。

毎熊克哉が神経質な父役にハマり、母(映美くらら)譲りのポジティブな三姉妹(近藤華、矢山花、鈴木凜乎)とコントラストをなしている。

長女は監督志望、次女は女優を夢見ている。そして余貴美子演じる祖母が大女優という設定が効いていて、面会場所のスタジオでのドタバタを見事なヤマ場にしている。

旅をともにするタクシー運転手に寺島進、喫茶店の店員に友親、祖母のマネジャーに円井わんと随所に配された個性派がアクセントになっている。夏休みにふさわしい上質なファミリー映画だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)