ロックバンドくるり初のドキュメンタリー映画「くるりのえいが」(佐渡岳利監督、10月13日公開)完成披露上映会が26日、東京・新宿ピカデリーで行われた。
「くるりのえいが」は、1996年(平8)9月ごろに立命大の音楽サークル「ロック・コミューン」で結成し、98年に「東京」でメジャーデビューした、くるりが、10月4日リリースの14枚目のアルバム「感覚は道標」を制作する過程に密着。ボーカル&ギター岸田繁(47)とベース&ボーカル佐藤征史(46)が、オリジナルメンバーながら02年8月に音楽性の違いで脱退したドラムの森信行(48)に声をかけ、3人で新たな楽曲を作る日々を克明にとらえた。
新宿ピカデリーで最大の、580人を収容するスクリーン1の壇上に立った岸田は「まぶしいです」と口にした。満員の客席を見た佐藤も「まさか、新宿ピカデリースクリーン1の、こっち側に立つとは…。ライブの何倍も緊張します」と本音を口にした。森は「オリジナルメンバーの森です。すごいですね。レコーディングする話はあったんですけど、映画を撮る…完成して、こうして披露すること、楽しみにしています」と映画製作に加え、舞台あいさつに登壇する機会が巡ってきたことを喜んだ。
映画では、静岡県伊東市の伊豆スタジオで約1カ月、合宿してレコーディングした、くるりとスタッフが中心に描かれる。岸田は「音楽やっていない人は、レコーディングは想像できないと思う。僕ら、そんなに普通だと思わないんで、他の人と一緒か分からないけれど長時間かかる。計30日くらい、こもってレコーディングしている」と説明。「食事が結構、大事。一番…というか厘差で結構、自分にとっては…大事」と食事の重要さを強調した。佐藤も「食事がなければ…楽しかったから1月(スタジオに)おれた」と続いた。
レコーディングに加え、地元・京都で創業50年の老舗ライブハウス「拾得」での貴重なライブも収録。そこに、結成当時のプロモーション映像、ライブの映像を絡めながら、なぜ今、また3人での曲作りを選択し、どのように新アルバムが生み出されていったのか、くるりの創作の裏側、秘密にも迫った。
3人に「東京」と01年の「ばらの花」という、2つの代表曲に関する思いを問う質問も出た。岸田は「くるりは大体、全部で300曲近く、皆さまにお聞き頂ける曲があると思うんですけど、作ったけど録音していない曲もいっぱいあって。私が作った曲も佐藤さんが作った曲もある」と語り出した。そして「どの曲がどう、というのはないんですけど。改めて3人でソングライティング、レコーディングをやっている時に、同窓会をやるのではなく新しいものを作りましょう、学生時代は3人でやってきたけど、やらへんかったものをやりましょう、と」と、改めて新アルバム制作への思いを吐露した。その上で「新しいことをやる時に役に立ったことは、この3人だけでやっていたのが基本の形で、作ったいろいろな曲の中で長い間、愛していただいていっている曲を、俺らが作ったんやなという、誇らしい気持ちが安心感になった。俺ら、あれ、作ったんやなという曲がある感じ」と2曲について評した。
映画の中で「東京」の歌詞について、改めて3人で振り返るシーンもある。佐藤は「アルバムを作ってリリースしてしまえば、その先、どう聴かれているかは分からない。ツアーでお客さんの前でライブをして、どういう形で聴いてはる、という感触を見ることは出来るけれど、皆さんの生活の中で、その曲がどうあるかは見えない」と語った。その上で「『東京』であれば…2週間、1日3、4本の取材をやる“鬼の取材”があった中で、カメラマンさんも『聴きながら上京しました』とかエピソードを話して頂ける」と、映画の公開に当たって受けた取材の中で、取材者から「東京」と人生を重ねたエピソードを聞いたと振り返った。そして「多分、その方がおじいちゃんになったり、その方の娘さん、息子さんが引き継いでくれはりそうな気がする。そう言ってもらえた最初の曲」と「東京」を評し「出たのが1998年(平10)…もうすぐ25年ジャストたつんですけど。四半世紀たってから、そういうお話をこちらが知れるのは、やっていてありがたい。今回の新アルバムで、新しく皆さんの中で、そういう曲が出来たらうれしい」と続けた。
森は「東京」を「僕の思っていることは衝動的、すごく初期衝動…作った時のダイレクトな感じが詰まっている」と評した。一方「ばらの花」については「僕の中では真逆。構築美みたいなのがある。(2曲は)代表曲と言われるけど、ちょっと違う」と評した。新アルバムのレコーディングについては「今回のレコーディングは、その辺をつなぐものと言うか、その両方が合わさって出来ている感じが多くて。大人になったんかなとか…分かんないけど、作っている時の感じが見えるので、いろいろ感じて欲しい」と、観客に呼びかけた。
「くるりのえいが」は、細野晴臣のドキュメンタリー映画「NO SMOKING」「SAYONARA AMERIKA」で知られる、佐渡岳利監督(56)が手がけた。全国の劇場で3週間限定公開&デジタル配信される。【村上幸将】