名曲「どうぞこのまま」のシンガー・ソングライター丸山圭子(71)が10月25日に、ニューアルバム「彩色兼美」を発表する。荒井由実(現・松任谷由実)、中島みゆき、尾崎亜美、庄野真代ら女性シンガー・ソングライターが台頭した時代に、はかない恋の物語をボサノバ調のメロディーで歌い支持を得た。同曲は数多くのシンガーにカバーされた。山口百恵、南沙織ら数多くの歌手に楽曲を提供した。「どうぞこのまま」から半世紀の思いなどを聞いた。(敬称略)【笹森文彦】
■20歳時に作詞作曲 シングル発売22歳
「どうぞこのまま」は76年7月5日に発売された。もともとはアルバム「黄昏めもりい」の収録曲だった。日増しに同曲の評判が高まり、シングルカットされた。
間もなく終わりを予感させる愛の行方。それでも、彼との今を、ただひとすじに、ただひたむきに生きたい。どうかこのままが続いてと願う。ボサノバ調のアレンジが印象的で、抑揚を抑えたソフトな歌声で聴かせる。発表から50年、今も支持される名曲である。
丸山 歌い続けて来て、何より自分らしい曲と痛感しています。歌詞の「ただひとすじに」と「ただひたむきに」という言葉は、私の座右の銘のような感じです。変わらずに、その気持ちを貫いてやって来ているかなと思います。
実体験をもとに、20歳の時に作詞作曲した作品である。シングルとして発売された時は22歳だった。
丸山 作った時は、素直に自分の気持ちに従って言葉が出て来ました。でもこの50年間、多くの方に聴いていただいて、それぞれの方の違ったドラマが出来上がっていった。いろんな方のエピソードを聞くと、すごくそう思います。
70年代に入ると、フォークソングやロックなど既成のジャンルではくくれない、ニューミュージックと呼ばれる新しい音楽が登場した。「どうぞこのまま」が発表された76年前後には、五輪真弓、荒井由実、中島みゆき、尾崎亜美、庄野真代ら数多くの女性シンガー・ソングライターが頭角を現した。
丸山 楽しかったですね。全部が新しいものばかりだった。今までにないオリジナリティー、素晴らしい個性を持っている人に出会えた。負けたくないとか、私は意識しない方でしたし、それよりよくおしゃべりしていましたね。
■山下達郎に…
2歳上の姉の影響で、小学校3年からピアノを本格的に習った。中学でフォークソングに興味を持った。高校では女性3人組「サンデースプリング」を結成。ギターも演奏して、文化祭などで歌った。
このころから作詞・作曲を始めた。高校3年生の時、ラジオ局主催のオーディションに入選。72年によしだたくろう、泉谷しげる、古井戸、シュガー・ベイブ(山下達郎、大貫妙子、村松邦男ら)、ケメ(佐藤公彦)、海援隊らが所属した新興のエレック・レコードと契約した。次代を担う個性豊かなアーティストばかりだった。刺激的だった。
丸山 (ギタリストの)Charが会社に出入りしていて、彼がギターを置いたところを見たことがなかった。ご飯食べる時も抱えていた。「食べる時ぐらい置けばいいのに」って言ったら、「いいんだよ」って食べながら、また弾いているみたいな(笑い)。
76年にエレック・レコードからキングレコードに移籍した。アルバム「黄昏めもりい」を制作する時に、エレックで親しくなった1歳年上の山下達郎にコーラスを依頼した。
丸山 直接頼んで、譜面をご自宅まで持って行った。大貫妙子さんもコーラスに参加してくれました。レコーディングの時、山下さんに「すみません。ちょっと低いんですけど」って言ったんです。そしたら回りのエンジニアが「(山下さんに)何、言ってるんだ!」っていう顔をして。でも「ああ、そうですか。すみません」って、素直に直してくれました。
山下達郎と言えば希代の音楽家だけに、今では考えられない話だ。
丸山 当時から山下さんはみんなに尊敬されていましたけど、アーティスト同士が近かったかなと思いますね。昭和ですよ。やっぱり昭和という、いい時代だったんですよ。
■楽曲提供依頼
「どうぞこのまま」は伊東ゆかり、岩﨑宏美、研ナオコ、椎名林檎、高田みづえ、八代亜紀ら、幅広いジャンルの女性歌手にカバーされた。松山千春、稲垣潤一、林部智史ら男性歌手にもカバーされている。
丸山 1人歩きした曲がお嫁に行って、ちゃんとそこで頑張って1つの形になっている。1人1人の方の個性に溶け合っているという感じが驚きです。
「どうぞこのまま」に代表されるアダルトなムード。懐かしさと今を融合したレトロモダン。そして都会的で洗練されたシティポップと、丸山の作品は多岐にわたる。その魅力に引かれ、麻丘めぐみ、岩﨑宏美、南沙織、由紀さおりら数多くのアーティストから楽曲提供を依頼された。
丸山 歌手の方に必ずお会いしてから書きます。どういう気持ちで、何を歌いたいのか。どういう性格で、どういう思いがあるのかを知りたいんです。
特に山口百恵は、本人から依頼が来たという。アルバム「ドラマチック」(78年)の収録曲として、「水鏡」「空蝉」(作詞は喜多條忠)の2曲を提供した。
丸山 百恵さんの絶頂期でした。1曲でパフォーマンスをセルフプロデュースできる人は、彼女の他にいないと思っていました。
今があるのは「どうぞこのまま」のおかげと素直に思える。「歌いたくない」と思ったことは1度もないという。
丸山 ただ、プライベートな環境の変化など、その時々の自分が出て、歌い方が変遷していると思います。ライブでは「今日の『どうぞこのまま』は今日だけです」と言って歌ってましたね(笑い)。
子育てや大学の授業などで空白期もあったが、「どうぞこのまま」とともに50年。これからもただひとすじに、ただひたむきに、人生と向き合う覚悟である。
■10・25発売新アルバム「彩色兼美」
ニューアルバム「彩色兼美」は、10月25日に古巣エレック・レコードから発売される。タイトルは「才色兼備」の当て字で、「彩りがあって、かつ美しい」の意味。歌のヒロインの形容だけでなく、愛の形にも通じる表現である。
発売にあたり「今回のアルバムは、人生の節目を迎えた私が、愛する尊さを底辺に置いて歌を書いた。徐々に命の終わりが見え出した時、最も大切なものは何か…それを素直に歌っている」と語っている。
10曲収録で、メロディーはクラシック、ゴスペル、ボサノバなど多彩だ。「海とピアノと珈琲と」や「五線譜を舞う恋」など、映画や小説のような曲名が想像力をかき立てる。「どうぞこのまま」は2025年バージョンで収録されている。
ピアノは穴水祐輔(24)、ベースギターはサトウレイ(46)が担当している。
穴水は洗足学園音楽大の客員教授だった丸山の教え子で、1月の第26回ショパン国際ピアノコンクール in ASIA(大学生部門)で銅賞を獲得した。
サトウは丸山の長男で、サウンドプロデューサー、シンガー・ソングライターでもある。同大ロック&ポップス科ベース&ボーカル講師を務めている。
3人で収録曲の編曲を担当した。丸山いわくチーム「3 Generations(3世代)」で、世代を超えた音の化学反応を楽しんでほしいという。
丸山 若い世代にも、それぞれの受け取り方で聴いてほしい。ただ人を大切にして、最後に愛が残ることは忘れてほしくない。AI(人工知能)に対抗したいです(笑い)。
◆丸山圭子(まるやま・けいこ)1954年(昭29)5月10日生まれ、埼玉・さいたま市出身。浦和第一女子高卒。72年にニッポン放送主催「VIVA唄の市」で入選し、同年、エレック・レコードからデビュー。代表曲は「あなたにつつまれて」「ふたりの砂時計」「ガラスの森」など。音楽の専門学校で講師7年、洗足学園音楽大ロック&ポップス科の客員教授として16年(25年3月退職)、作詞・作曲・ボーカルを教えた。4人組ロックバンド、マカロニえんぴつは教え子。著書は「どうぞこのまま」(小径社)「作詞作曲自由自在」(玄視社)など。
■4会場でライブ
アルバム「彩色兼美」発売記念ライブを開催する。聴く人の反応を直に感じられる会場にこだわる。穴水、サトウが共演する。
▼10月25日<1>午後1時と同4時の2回公演<2>東京・赤坂ストラドホール
▼11月8日<1>午後6時30分<2>大阪・Sope Opera Classics~Umeda
▼同15日<1>午後6時<2>京都・RAG
▼同16日<1>午後7時<2>名古屋・モナペトロ
【注】<1>開演時間<2>会場



