歌舞伎俳優の片岡仁左衛門(81)が9月の歌舞伎座で、当たり役のひとつ、「菅原伝授手習鑑」の「筆法伝授」「道明寺」の菅丞相(かんしょうじょう=菅原道真)を演じた。
Aプロは仁左衛門、Bプロは松本幸四郎がつとめるという2通りの配役も話題になった。
仁左衛門は終盤になって体調不良で休演したが、休演は1日のみで、千秋楽に復帰した。
初日、仁左衛門の神々しさに目がいった。上演に際し、京都・北野天満宮で行った成功祈願の時は「天神様ってあんな人やったんか、と思われないように」と笑っていたが、舞台上の仁左衛門はまさに天神様そのものだった。
菅丞相は政敵の陰謀で太宰府に流罪になった。政治家のみならず、学問や書に秀で、後に学問の神様「天神様」として信仰を集めることになる。そういう背景に加え、生身の人間と木像に化身する場面もあることもあって、半分人、半分は人ならざる者といった神秘性を感じた。
千秋楽に見た印象はまた変わったものになった。細かな表情からは、神性に加え、人間らしい豊かな情緒を強く感じた。武部源蔵というかつての家臣とのやりとり、太宰府に向かう前の大事に思う養女との別れなど、さまざまな局面があるのだが、目線ひとつで、まばたきひとつで、喜び、葛藤や哀しみを感じられた。
北野天満宮の取材会でもそうだったが、これまで仁左衛門は菅丞相をつとめるたびに「演技ではない。気持ちになりきることが大事」と語ってきた。菅丞相気になりきった仁左衛門を今回ほど強く感じたことはなかった。
10月は「義経千本桜」の「木の実・小金吾討死・すし屋」(Bプロ配役)で、いがみの権太をつとめる。9月とはがらっと変わって、憎めない小悪党という役どころ。ただ、優しさと家族思いの気持ちを持ち合わせた人物で、いろいろな心情変化が見られるのが楽しみだ。【小林千穂】



