元TBSアナウンサーで、同局の人気音楽番組「ザ・ベストテン」司会や、テレビ朝日系「ニュースステーション」のキャスターとして知られる、久米宏(くめ・ひろし)さんが1日、肺がんのため亡くなった。81歳だった。所属事務所が13日、公式サイトを更新し、発表した。
久米さんは2006年(平18)1月22日付日刊スポーツの名物企画「日曜日のヒーロー」の500回記念インタビューに登場。「ニュースステーション」終了から2年での本音、同学年のみのもんたさん(25年3月に死去)への対抗心などを語った。
今回、当時の肩書、年齢で再録する。
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テレビのニュース番組を変えた男である。18年半続けた「ニュースステーション」は、それ以前のニュースと違い、巧みな進行でショーアップされ、高視聴率で走り続けた。久米宏氏(61)。番組終了から約2年。紙上にめったに露出しない男が本紙ロングインタビュー500回記念に答えた。去った番組への思い、激変するメディアへの視点-。「ミスター・ニュース番組」の登場である。
★「報ステ」僕だったら
繊細な神経と頭の回転の速さ、そして、コミカルに味付けする-。「ニュースステーション」で見せた久米氏の顔。今、テレビで姿を見る機会はないが、どんな生活を送っているのか。
「番組が終了したら『あれもしたい、これもしたい』と奥さんとよく遅くまで話したんですけどね。あの番組を18年半もやってましたから、習性が今でも抜けないというか…」。
ちょっと困惑した表情と習性という言葉の真意をたずねると、それは、一種の“病”のようだ。
「テレビ朝日局内で、夜8時45分のNHKのローカルニュースと9時のニュースを10分、天気予報も見て、それから着替え、だんだんテンションを上げて本番という生活を18年半もやってたわけで、今も、8時45分のニュースを見ちゃうと、気分が高揚してくるんです。見なきゃいいのに、つい、油断して見ちゃって、もうドキドキ。さらに報道ステーションを見ちゃうと『僕だったらこうするな』」とか。そんなこと考えて、どうする(笑い)」。
自分をあまのじゃくと言い、ほかと違う番組を追求した18年半。番組で使うペン1本も気遣った。権力からの圧力や、99年のダイオキシン問題でカメラの前で陳謝したことも。心も体も張り詰めた日々だった。
「ニュースステーションを始めるとき、まず、覚悟を決めようと思ったんです。それは、殺される可能性が結構高いなと思ったから。でも、自分のやりたい番組で殺される可能性があるんだったら仕方がないかなと。実際、放送やってて、危ないなと思う時も実は何回かあったんです。ボディーガードも付きましたが、でも、覚悟はありましたから。このことは、あんまり人には言ってなかったことですけど」。
カジュアルな服装。テンポよく話す姿からは想像し難い重圧。ストレスや悩みも尽きなかった。
「ストレスがたまったら、それは、仕事で返すしかないんですね。酒を飲んで、悪口を言っても、余計ストレスがたまるばっかりで。ゴルフのストレスはゴルフで、仕事のストレスは仕事で返す。それしかないんです」。
★若い人切れNHK
昨年はNHKの改革が声高に叫ばれた1年でもある。例えば、視聴率低迷が叫ばれ、みのもんた(61)が司会を務めた紅白をどう感じていたのか。
「僕が昔やっていたザ・ベストテンが下火になったのは、いろんな歌手、曲層が出てきたからかなと思うんです。ファンの関心が分散しちゃって。それと同じで、NHKは、どうしても若い人に見てほしいと思う。僕に言わせると、それこそが間違い。僕はねえ、もう、紅白は35歳から上の人しか見なくていい。せいぜい、サザン、いってもSMAPとかまで。そこから下の人は出さないとかね。『10代、20代のやつは見るな』とかやると、逆にお父さんとか、お母さんとかと一緒に見ると思うんです」。
みんなに見てもらおうというのはダメなのか。
「僕がニュースステーションをやるとき、みんなに愛されたい、みんなに見てもらうというのはダメだと決めていましたよ。大体、10人に2人見てくれたら20%。10人中9人に見てもらおうと思ったら、わけ分からない番組になる。だから、紅白が視聴率60%を超すには若い人を思い切って切り捨てることですね。NHKにはその勇気がないんです。みんなに愛されたい、みなさまのNHKではだめなんです。僕がもし、プロデューサーなら、若い人を全部切ります。司会はやりませんけど(笑い)」。
NHKのニュースはどうか。
「僕はまず、人と同じことは絶対に、やりたくない。NHKのニュース10は、ニュースステーションをつぶすと鳴り物入りで始まったけど、こちらは、紅白とは逆に、視聴率はいらないという作り方をしているように見えて仕方ない。わざとつまらなくしている。ニュース番組は面白くしなければいけないし、見てる人の脳を活性化する番組がいいと思います。例えばAからB、Cを通ってDに行くのに『AからD、どうしてなんでしょう?』と聞くわけです。そうすると、視聴者もエッ?と思ってくれる。知的刺激を受ける番組が面白いと思う。それなのに、NHKは『民にお知らせする』という作り。模型もカメラが回り込んで、その裏側まで見せたりすると、面白いのに。そういうちょっとしたこともできなければ、いつまでもNHKは変われない」。
★局作れヒルズ族
昨年、通信と放送の融合も連呼された。この融合はどう進むのか。ネットで自動車番組を持ち、両方の世界を知る立場から、今後について意見を聞いた。
「通信と放送という言葉には前から違和感があって。名前が違うだけで、伝える点では同じ、区別できるもんじゃないと思うんです。相手が1人なら通信で、不特定多数なら放送? 電話だって盗聴していたらどうなる。分けるから話がややこしくなる。テレビとネットの境はもうないと思う」。
確かに見る側は映像を見ている。
「僕もネットの方がテレビより見る時間が圧倒的に多い。4時間くらい。ニュースとか、地図マニアなので。一日中見ても飽きない。ホームページも作っているし」。
楽天の三木谷浩史氏、ライブドア堀江貴文社長についてはどう見ているのか。
「放送局より、球団持ちたかった方が納得できた。その時代に一番勢いのある企業が球団を持つことは昔からあること。アメリカだって、金を持つやつが、バスケットチームを持った。よく分かりますよ。でも、それが、今度は放送局を買収することはないじゃないかと思った。それなら、自分で作ればいいじゃないかと。僕は、ブロードバンド放送のGyaOで、番組をやってるけど、彼らは、自分たちで立ち上げようとしているから認める。人と違う全く新しいものを作る方が、魅力を感じますね。買収は前からあったものを買うことですよ。若い人なら、自分で作った方が面白いと思う」。
★みのさん仕事しすぎ
2007年問題とまで言われる団塊の世代の定年と高齢化社会はいよいよ本格化する。同世代への思いは。
「仕事がなくなったら、趣味を持たないとその後の人生の間が持たないとか、習いごとをしないと生きていけないとか言いますでしょ、それって本当ですかね? ビジネスチャンスを狙う企業の戦略じゃないですか。本当に趣味がないと生きていけないのか? 僕は絶対に違うと思う。それと、これまで、仕事していた人はみんな、どんな仕事してたにせよ、必ず何かの専門家なんですよ。例えば帳簿の専門家とか。それで、家族を支えてきた。子供も育ててこれたわけです。これをもっと誇りに思い、自信を持った方がいい。リストラだ、粗大ごみだとか言われますけど、いじけることはないと思う。『ばか野郎』と言っていい。みんなキャッチフレーズに弱すぎます。自分の老後を自信を持って探したらいい」。
そう言葉に力を込める久米氏自身は、今後、どう生きていくのか。それを聞くと意外な人の名が。
「僕は、実はみのもんたさんと同期なんですよ。あいつがあんなに仕事するから、いけない(笑い)。僕がしてないから目立っちゃって、目立っちゃって。あの気力、感心します。飲んでる酒が違うのか? 何でそんなに頑張るのか? 僕も、仕事は好きなんですが、まあ、十分やったからという思いもあるんです。やり出すと、僕たちの仕事、際限がないんです。もうちょっと、ぼーっとしていたい。しばらくは何をしたいか、自問自答しています」。
自問自答の、その先に何を見ているのか。メディアの風雲急な激動を見据え、新たな「人と違うことを」視界に-。むくむくと、思いはわく。



