大阪松竹歌劇団出身の歌手北沢麻衣(63)の新曲「ヨコハマ・ロンリーナイト」が22日に発売される。歌手としても活動する作曲家杉本真人(77)が手がけた。横浜を舞台に男女の別れをスローなナンバーで切なく描き、北沢の哀愁ある歌声に乗せている。
2人は長年の師弟関係で、北沢のデビュー作「私の胸をかじる人」(85年)など、これまでに多くの作品を杉本が提供してきた。
「ヨコハマ-」ができるきっかけは北沢が23年に夫を病気で失ったこと。ひどく落ち込む北沢を励まそうと夫婦が暮らした横浜を舞台にした曲ができあがった。
「弟子を励ましたい」「最愛の人を失った痛みを少しでも和らげたい」。杉本がそう思う背景には同居する母を失った自身の喪失体験がある。
杉本(歌手名義はすぎもとまさと)が07年にリリースした「吾亦紅」は大ヒットし、同年の紅白歌合戦に初出場をはたした。同曲は、母を亡くして仕事が手に付かないほど落胆する杉本を見かねて、親友の作詞家ちあき哲也さん(15年に66歳で死去)が「仏前にささげて」と送った歌詞から生まれた。ちあきさんは親友の深い悲しみと優しい母の人柄のいずれも良く分かっていた。
杉本は自称“母ちゃんっ子”。10代のころから曲ができると真っ先に母に伝えた。「いい曲だねえ」。その褒め言葉がうれしくてまた曲を作る。「母のことが大好き。今の私があるのは母のおかげ」と話す。
「ヨコハマ-」について「愛する人、大切な人を失うことは誰もが経験する。この曲で、そんな人の悲しみや喪失感を少しでも癒やせてもらえたら」と願っている。
一方の北沢は、亡き夫について「サッカーが好きな“サッカー少年”でギターが趣味の人でした。私の苦手なパソコンと車の運転が上手。亡くなってからは主人をしのびながら、スーツケースを持って1人でやっています」と話す。そして「横浜ってすごくにぎやかで人が多い街だけど、自分が独りぼっちになったんだなという孤独感は今も抜けない」と続けた。
杉本のことは「デビュー前からなのでかなり長いお付き合い。お兄ちゃんみたいな感じ」だという。これまでに何作も作ってもらっているが「毎回、曲の雰囲気が違う。『いつになればヒットをするんだ。もうこれ以上、おれがお前にやるものはない。お前は歌はうまくないけれど声はいいんだから頑張れ』といつも冗談交じりに言われます」。そして「悲しい歌はやはり悲しい経験をしないと歌えない。『ロンリー-』はつらい経験をした上で、そこから抜け出す力強さみたいなものを表現した曲。自分の人生をかけてヒットさせたい」と意気込みを明かした。
多くの人の涙を誘った「吾亦紅」の発売から19年。令和版の新たな哀悼歌が生まれた。【松本久】
◆北沢麻衣(きたざわ・まい)1962年(昭37)11月11日生まれ。大阪府出身。中学卒業後の78年にOSK(大阪松竹歌劇団)研修所に入学。歌手を目指して退団し、杉本真人に師事する。85年に「私の胸をかじる人」でデビュー。8月7日に横浜市南公会堂で行う新曲発表公演に杉本がゲスト出演する。



