映画「仁義なき戦い」などで知られる元俳優の菅原文太(すがわら・ぶんた)さんが11月28日午前3時、転移性肝がんによる肝不全のため、都内の病院で死去したことが1日、分かった。81歳。

 菅原さんの訃報を受け、代表作で共演した俳優愛川欽也(80)と松方弘樹(72)がこの日、それぞれ都内で会見し、盟友の死を悼んだ。ともに当時の思い出を語った上で、菅原さんに拒まれ、新作映画での共演を断念したことを明かした。

 「トラック野郎」シリーズで相棒役を演じた愛川はこの日午前、訃報をスタッフから知らされたという。「患っているとか、聞いたこともなかった。キョトンとしてびっくりしちゃっているのが本音」。驚きが大きく、涙はなかった。最後に会ったのは今春。東映本社で偶然再会し、あいさつを交わしたという。「オレよりも元気そうで、どこも悪くなさそうでしたね」。

 75~79年にかけて製作された「トラック野郎」シリーズは全10作。菅原さんは真っすぐで情に厚い“一番星”桃次郎を、愛川は相棒、“やもめのジョナサン”こと金造を演じた。愛川の番組に、菅原さんがゲスト出演したことで知り合い意気投合。愛川が「トラック-」の出演を持ち掛け、菅原さんが快諾したという。

 「トラック-」11作目となる新作構想を菅原さんに明かし、断られたエピソードも明かした。「何年も前、お互い年を取って、最後に最終作をやらないかって。でも、文ちゃんは『キンキン、もういいんじゃないか』と。で、その話を止めちゃった」。

 「仁義なき戦い」シリーズで共演した松方は、くしくも愛川と11月26日にテレビ番組で会い、菅原さんの話をしていたといい、涙を浮かべながら言った。「亡くなったなんて信じられない。白髪になった文太さんの映画をもっと見たかった」。同シリーズでは、菅原さんに芝居を褒められ、「うれしくて一生懸命頑張った」という。「いつも先を走っている先輩で、手が届きそうで届かなかった。お酒を飲むと楽しく、おとこ気あふれる人だった。高倉健さんは憧れが入るけど、文ちゃんは一緒に食事をしたり、お酒を飲んだのが僕の中ではベスト3ぐらい、多いですから」。

 交流は続き、愛川と同様に菅原さんに映画出演を依頼していた。「『出てよ』って何回も電話で言ったことがあります。『もう、いいよ』ってばかり言うんですけどね」。愛川、松方…多くの人に心残りを抱かせ、菅原さんは旅立った。

 ◆「トラック野郎」

 故鈴木則文監督のコメディー。75年、穴埋めの低予算映画として製作されたが、満艦飾にデコレーションされた長距離トラックと派手なカーアクションが話題を呼び、大作「新幹線大爆破」を上回る興収をあげ、急きょシリーズ化が決定。79年末まで松竹「男はつらいよ」のライバル作として年2回公開され、全10作が製作された。映画のヒットで車体を電飾で飾る“デコトラ”が大流行し、警察が取り締まりを強化。規制に乗り出す事態に発展した。

 ◆「仁義なき戦い」

 戦後、広島で起こった暴力団抗争を描いた故飯干晃一氏の実録小説を原作に故深作欣二監督が映画化した。73年1月公開。ドキュメントタッチの暴力描写、広島弁によるセリフはリアリティーにあふれ、実録物と呼ばれた。74年「仁義なき戦い完結篇」まで5部作が製作された後、番外編「新仁義なき戦い」が76年まで3作作られた。「仁義なき戦い」は副題の「代理戦争」「頂上作戦」などとともに、雑誌、新聞などの見出し語として定着した。