今年5月の安倍派パーティーで、安倍晋三元首相(左)はあいさつを行った森喜朗元首相に一礼した(2022年5月17日撮影)
今年5月の安倍派パーティーで、安倍晋三元首相(左)はあいさつを行った森喜朗元首相に一礼した(2022年5月17日撮影)

安倍晋三元首相の国葬が2日後の9月27日に迫った。実施のための手続きが稚拙で、国民の間に賛否両論を巻き起こすきっかけをつくった岸田文雄首相は、説明を求められてもどこか及び腰で、結局最後まで「なぜ国葬を行うのか」の理由を、だれもが理解、納得できる説明は行われないまま、ここまできてしまった。進んでも退いても反発を招く状態で、「もう決まったこと」として押し切られようとしている。

安倍氏が亡くなって2カ月半あまりが過ぎたが、安倍氏は今も自民党最大派閥、清和政策研究会(安倍派)の会長だ。その安倍派が9月19日、都内のホテルで夏季研修会を開いた。

当日は台風14号の影響で都心は暴風雨。「究極の晴れ男」(安倍派の世耕弘成参院幹事長)だった安倍氏の不在を象徴するような天候だった。冒頭、今年5月17日に同じホテルで開かれた派閥の参院選に向けたパーティーでの安倍氏のあいさつが録画で流され、遺影の写真が出席議員に配られた。その後、全員で安倍氏に黙とう。報道陣に公開された部分は、安倍氏の追悼会のような雰囲気だった。

国葬への発言も。安倍氏不在の派閥で会長代理を務める塩谷立元文科相氏は「長年在位し功績を残した政治家を悼む。粛々と行っていただくことを切に望む」と述べ、世耕参院幹事長は、安倍氏が衆参6度の国政選挙で勝ち、8年8カ月間首相の地位にあったとして「その地位に対する敬意としての国葬だと思う」と説明した。

一方、塩谷氏は「安倍会長が取り組んだ政策課題をしっかり継いで結果を出していくことが(今後の)大きな目的。安倍会長の5月の(パーティーでの)発言を実行することが我々の責任だ」と、今後の派閥としての意義についても訴えた。今、永田町では国葬を節目にして、安倍派の体制がどう変わるのかに関心が注がれる。安倍氏の突然の死に、さらに次の会長ポスト争いという混乱が加わることを避けるように、新しい派閥会長という「ポスト安倍」選びは、先送りの状態が続いているためだ。

安倍派の夏季研修会であいさつする会長代理の塩谷立元文科相(2022年9月19日撮影)
安倍派の夏季研修会であいさつする会長代理の塩谷立元文科相(2022年9月19日撮影)

「国葬というひとつの区切りまで、派閥が混乱することはあり得ない。一方で、この後、いつまでも『昔の名前』にすがっていくのは、最大派閥の姿としてあり得ない」と、ある国会議員は話した。新会長ポストを誰が引き継ぐのか、人選次第では、派閥内の混乱も懸念されている。

ただ、旧統一教会と自民党議員との関係の深さが明らかになったことが、ことを複雑にしているようだ。以前「国葬終了は『ポスト安倍』の権力闘争の号砲だ」と話していた党関係者は、「安倍派は、旧統一教会との関係の深さが党内で最も深刻。権力闘争というより(候補者が)『淘汰(とうた)』される流れになるだろう」と話す。「誰がトップになっても、これまでのように結束が続くのか疑問だ」とも指摘。分裂もあるとの見方を示した。

そうなるのも「数」が一因だ。自民党はずっと「数の力」をエンジンに、政治を動かしてきたが、そこには一致結束という条件がある。数はあっても結束がなければ、バラバラになる。過去、安倍氏の父晋太郎氏の時代にも分裂が起きた清和会だが、今は当時よりも多くの人数が属する。また安倍派は、政策、理念だけでなく安倍氏の求心力で保たれてきた側面が大きく、求心力を失えばばらける可能性をはらむ。最大派閥がばらけるようなことになれば、党にとっても混乱要素になりかねない。

当初、次期会長候補に有力視された萩生田光一政調会長は、旧統一教会との関係が明らかになった。西村康稔経産相も出張時の「トリセツ」が暴露され、指導力に黄信号がともった。そのほかにも複数の候補の名前があがるが、突出した人材はいないのが現状といわれる。安倍氏のようにだれもが納得する人がいないので、だれかが動けばだれかが反発する。数が多い分、まとまれるのかどうか。そこが新会長選びがなかなか進まない要因でもあるようだ。

安倍派の夏期研修会では冒頭、出席者が安倍元首相に黙とうした(2022年9月19日撮影)
安倍派の夏期研修会では冒頭、出席者が安倍元首相に黙とうした(2022年9月19日撮影)

2000年以降森、小泉、安倍(第1次)、福田、安倍(第2次)と首相を輩出。今や、最大派閥となった清和会。その「数」を維持していけるのだろうか。

「数を誇ってはいけない。数があれば何でもできると思ったところから、崩壊が始まる」。こう話したのは、かつて森派として清和会を率い、前述の5月のパーティーであいさつした森喜朗元首相だ。97人が所属し、100人を目前にした派閥の状況を評したもので、当時はその発言に笑いも漏れていたが、今、清和会=安倍派はその数の力の「怖さ」に直面しているともいえそうだ。

派閥の夏季研修会はこれまで、東京を離れて泊まりがけで行われていた。2020年以降のコロナ禍で開催が見送られてきたが、今年は、都内で宿泊を伴わない形で再開した派閥もあった。新型コロナの感染状況にもよるだろうが、来年は本格的に行われるかもしれない。そのころ、安倍派の会長や所属人数に変化は起きているのだろうか。【中山知子】