東京・赤坂の日本料理店での「同窓会」後、報道陣に囲まれる小泉純一郎元首相(2019年10月10日撮影)
東京・赤坂の日本料理店での「同窓会」後、報道陣に囲まれる小泉純一郎元首相(2019年10月10日撮影)

2023年前半、与野党の戦いの舞台となる第211回通常国会は、明日1月23日に召集される。岸田文雄首相が昨年打ち出した防衛費増額をめぐる防衛増税や「異次元の少子化対策」がどんな展開をみせるのか、5月に首相の地元広島でG7サミットが行われた後、首相は衆院解散・総選挙に踏み切るのか…。政策を実行するに当たって「後手後手感」と「唐突感」という、いずれにしてもズレたタイミングばかりが目立つ首相。統一地方選挙も4月に予定され、支持率も依然、低空飛行が続く中、政権の今後を左右するかもしれないさまざまな局面が待ち受けている。

後手後手だった閣僚の更迭、唐突だった「防衛増税」。「タイミング」に対する政治的なセンスが問われる岸田首相だが、それとは対照的に、絶妙なタイミングで「あの会合」のニュースが飛び込んできた。

「あの会合」というのは、小泉政権を支えたOBらによる「同窓会」。小泉純一郎元首相が行きつけにしている東京・赤坂の日本料理店「津やま」で、小泉氏の盟友山崎拓元自民党副総裁や、小泉氏の「イエスマン」と呼ばれた武部勤元自民党幹事長らが集まり、杯を傾ける定期的な会だ。1月18日夜、この集まりが久しぶりに開かれた。コロナ禍もあり、2年半ぶりくらいではないかと記憶している。

小泉氏や山崎氏、武部氏のほか、小泉内閣で経産相、郵政選挙当時は自民党の総務局長だった自民党の二階俊博元幹事長、政調会長を務めた中川秀直元自民党幹事長も同席した。この日は姿はなかったが、小泉政権で環境相を務めた小池百合子東京都知事も会の主要メンバーだ。2020年6月の会には、郵政選挙を経て国会議員を1期務め、今はタレントとしても活躍する杉村太蔵氏が参加したこともある。

この会合、過去には、示し合わせたかのように首相時代の安倍晋三氏が財界人と会うため、別の部屋に居合わせたこともある。昭和のころの日本政界には、「料亭」を舞台に政治が動く「料亭政治」時代があったと聞くが、この津やまの会は「同窓会」「OB会」の形を取りつつ、今の政治情勢にもの申すような雰囲気が漂う。会合の夜には、赤坂の小径を入った場所にある店の前で多くの記者やカメラマンが待ち、周囲には黒塗りの車もたむろする。

小泉氏は記者に囲まれても積極的には語らないが、山崎氏が「スポークスマン」的な立場で、会でのやりとりを明らかにする。18日の会では、支持率が低いままの岸田内閣は年内の衆院解散・総選挙に踏み切れないとの声が出たようだ。年内にも衆院解散・総選挙か? との見方が出ているだけに、意外だった。このほか岸田首相肝いりの「防衛増税」の現状に対する異論も少なからず寄せられたという。

首相を退任し、最近は「原発ゼロ」の講演も行わなくなった小泉氏だが、現役時代は独特の政局勘で政治を動かしてきただけに、発言には関心が集まる。2018年4月の会合後、記者に囲まれた際には「(出席者の中で)現役は二階さんだけ。政局の話はしない」とけむに巻いたが、山崎氏が明かすやりとりの中には、その時々の政治情勢を反映する内容も多い。

2017年4月の会では、小池氏がかかわる東京都議選や、東京五輪・パラリンピックが話題にのぼり、2018年10月の会では、安倍氏が意欲を示していた憲法改正に、否定的な意見が出たという内容だった。

一方、2019年10月の会では、翌年の都知事選再選出馬を控えた小池氏について、小泉氏が珍しく口を開き「自民党は候補者を検討しているようだが、小池さんに勝てる候補はいないだろって言っといたよ」と話し、山崎氏も「流れとしては小池再選(出馬)」と解説し、実際そのとおりになった。

この時の会合では、安倍首相(当時)の政権運営に関し、当時臆測が出ていた年内の衆院解散・総選挙について「論外。あり得ないだろう」との認識で一致。結果的に安倍氏はこの年、衆院解散には踏み切らず、翌2020年、新型コロナウイルス感染拡大のさなかに首相を辞任した。

衆院本会議で答弁する岸田文雄首相(2022年11月21日撮影)
衆院本会議で答弁する岸田文雄首相(2022年11月21日撮影)

今回、今のままでは「岸田首相は年内の衆院解散・総選挙に踏み切れない」との見立てが出席者から示されたことで、3年あまり前に、同じような見立てがあった赤坂の夜のことを思い出した。どんなに周囲がざわつこうが、衆院解散は首相の専権事項で、今は岸田首相がそれを持っている。それでも、かつて専権事項を持ち、政治を動かしてきた小泉氏をはじめとする人々の見立てでもある。年内解散総選挙への観測も出ている中だけに、気にならないはずはない。

通常国会が始まる直前の絶妙な時期に語られた「赤坂の夜」の見立てと、岸田首相の腹の中。交わるような展開になることはあるのだろうか。【中山知子】