ボンバルディア「グローバル7500」同型機の内部


大谷翔平選手が日本帰国時に乗っていたビジネスジェットが話題になりました(2023年3月15日撮影)
大谷翔平選手が日本帰国時に乗っていたビジネスジェットが話題になりました(2023年3月15日撮影)

WBC(ワールドベースボールクラシック)が3月8日に開幕した。WBCに出場する大谷翔平選手は、所属するロサンゼルス・エンゼルスのキャンプ地であるアリゾナ州のフェニックスからビジネスジェット(プライベートジェット)で羽田空港に帰国した。大谷選手が乗っていたビジネスジェットとはいったいどんなものなのか? 航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さんが解説する。


日本~アメリカもノンストップで飛べる


今回、日本までの約12時間のフライトで使用したのは、ビスタジェットが運航するボンバルディア社の「グローバル7500」という機種である。大谷選手のインスタグラムでも写真が掲載されたことでも話題となり、羽田空港到着前には飛行機追跡サイト「フライトレーダー24」でも多くの人がリアルタイムでチェックしていた。


インスタグラムに搭乗する飛行機の写真を投稿していた(写真:大谷翔平選手のインスタグラム)
インスタグラムに搭乗する飛行機の写真を投稿していた(写真:大谷翔平選手のインスタグラム)

まず、大谷選手が利用したビジネスジェット「グローバル7500」とはどんな飛行機なのかというと、航続距離は1万4620キロで、東京からニューヨークまででもノンストップで飛べる。最大で19人乗ることができるが、ベッドのスペースなどを考えると7人程度までの利用がベストの飛行機である。パイロット2名と客室乗務員1名が基本的には乗務する。


機内の様子は、運航する会社や持ち主のオーナーによっても変わるが、ビジネスジェットを手配する「ANAビジネスジェット」社は、2021年4月に報道機関向けに「グローバル7500」の内覧会を実施し、筆者も実際に機内に入らせてもらった。


大谷選手はビジネスジェット「グローバル7500」に搭乗した。写真は同型機(写真:ボンバルディア社提供)
大谷選手はビジネスジェット「グローバル7500」に搭乗した。写真は同型機(写真:ボンバルディア社提供)

大谷選手が搭乗したビジネスジェットと内装は異なるが、取材した同型機では、機体前方に横幅がゆったりとしたシートがあり、向きあわせになっており、大きなテーブルを出すことでパソコンで仕事をしたり、食事を楽しんだりすることができる。


ANAビジネスジェット社取材会での「グローバル7500」の内装(筆者撮影)
ANAビジネスジェット社取材会での「グローバル7500」の内装(筆者撮影)

さらに機内Wi-Fiも完備しており、オンライン会議も機内から行うことも可能だ。また機内真ん中はリビングルームになっており、テレビもある。ソファでリラックスすることもできる。


リビングルームもある。ANAビジネスジェット社取材会での「グローバル7500」の内装(筆者撮影)
リビングルームもある。ANAビジネスジェット社取材会での「グローバル7500」の内装(筆者撮影)

そして最後方にベッドルームがあり、セミダブルに近いサイズのベッドが用意されている。イメージとしては細長いホテルの部屋という感じで、高級ホテルに泊まっている感覚での移動が可能なのだ。


ベッドルームもある。ANAビジネスジェット社取材会での「グローバル7500」の内装(筆者撮影)
ベッドルームもある。ANAビジネスジェット社取材会での「グローバル7500」の内装(筆者撮影)

定期便のファーストクラスとは比較にならないくらいの快適な移動空間で、何よりも知っている人だけで移動することで人の目を気にしなくてよく、まさにストレスフリーでリラックスできるレベルが異なる。今回の大谷選手のように体調万全で帰国するのに最適な選択肢であることは間違いない。


コロナ禍で需要増、羽田空港には専用のゲートも


日本でも近年「ビジネスジェット」が注目されている。コロナ禍に入ってからは定期便の便数が大きく減ったこと、人との接触を最小限にしたいこと、限られた時間の中で好きな時間に移動できることから需要は増えているとのことだ。羽田空港でもビジネスジェット専用スポット(駐機場)があり、国内移動であれば車を飛行機に横付けして、そのまま搭乗することが可能となっている。


機体前方に横幅がゆったりとしたシートがある。ANAビジネスジェット社取材会での「グローバル7500」の内装(筆者撮影)
機体前方に横幅がゆったりとしたシートがある。ANAビジネスジェット社取材会での「グローバル7500」の内装(筆者撮影)

海外移動の場合は、羽田空港第3ターミナル近くに東京五輪開幕直前の2021年7月15日に専用のビジネスジェットゲートがオープンし、小さな建物内で入国審査・出国審査・保安検査などの手続きを全て行えるようになった。


海外から到着した際にはビジネスジェットゲート前の車寄せから出ることが可能となり、今回、大谷選手がアメリカからビジネスジェットで帰国した際、車寄せの外に多くのファンが集まった映像を見た人もいると思うが、まさにその場所がビジネスジェットゲートである。


無駄な時間がないということがビジネスジェットの最大の魅力であり、利用者のスケジュールに柔軟に対応している。今回の大谷選手のケースでもアリゾナでのオープン戦に出場後、日本へ向けての準備を整え、車でフェニックス空港に到着してすぐに出発できた。いわゆる搭乗手続きはなく、飛行機出発の2時間前とかに空港へ向かう必要はまったくない。


アメリカから出発する場合には特に出国審査はないので、大谷選手が飛行機に乗ったらすぐに出発ということになる。加えてアリゾナ州フェニックスから日本への直行便はなく、乗り継ぎや搭乗手続きなどの時間を考えると移動時間も7時間以上は短縮されることになる。3月9日のWBC初戦での登板で、3月1日に日本帰国という状況であれば、ベストな選択肢であったことは間違いないだろう。


やはり気になるのがビジネスジェット(チャーター機)の料金である。今回運航したビスタジェット社の料金は公表されていない。ビジネスジェットを手配するANAビジネスジェット社に取材をすると、基本的には「区間」「日程」「機材」で料金が決まるそうだ。海外へビジネスジェットを使って渡航する場合、基本的には片道でも往復でも大きく値段は変わらないとのことだ。


料金は「区間」「日程」「機材」で決まる。ANAビジネスジェット社取材会での「グローバル7500」(筆者撮影)
料金は「区間」「日程」「機材」で決まる。ANAビジネスジェット社取材会での「グローバル7500」(筆者撮影)

企業経営者などが仕事でビジネスジェットを使う場合は、最少日数で移動することが多いが、今回の大谷選手については、アメリカ・アリゾナ州フェニックスから羽田空港までの片道利用で、WBCの準々決勝に勝利した場合、その後アメリカに向かう際にはチームと共に移動する可能性が高く、ビジネスジェットは使わないだろう。


片道利用でも、乗ってきた飛行機をアメリカに戻さなければならないことから往復に近い料金になるのだ。


今回大谷選手が利用した「グローバル7500」の同型もしくは同等の太平洋をノンストップで飛べるビジネスジェットを利用した場合、東京~ニューヨーク往復で約6000万円~、ロサンゼルス往復で約5000万円~、ハワイ往復で約4000万円~、シンガポール往復やアジア周遊で約3000万円台などとなっている。


滞在日数などによっても異なるが、今回の大谷選手についてもサンプル料金から考えると5000万円以上かかっている可能性も考えられる。


企業経営者を中心に需要が高まる可能性も


当初はシカゴ・カブスに所属する鈴木誠也選手も同乗することになっており、残念ながらけがによる辞退で一緒に日本へ帰国することができなかったが、大谷選手の通訳の水原一平さん、代理人などが一緒に移動した。関係者も含めて利用することで1人あたりの費用は下がることになる。


海外ではグローバル企業の経営者などを中心に世界を飛び回る際に活用されているが日本では、まだまだ海外に比べると利用する人は少ないが、一度利用するとメリットの大きさを実感する経営者は多いとのことだ。またスポーツ選手でもゴルフのトッププロは世界中の試合を転戦する際にゴルフ場近くの空港にビジネスジェットを飛ばすことは珍しくない。


特に大きな企業間取引などにおいて、超多忙な経営者が現地へ赴くことによるメリットはビジネスジェットの料金を払ってもメリットがあることも多いが、日本だと理解されにくい風潮もある。


しかし今回、大谷選手がアリゾナ州フェニックス→羽田、羽田→名古屋でビジネスジェットを利用し、さらにダルビッシュ有投手の羽田→宮崎のビジネスジェット利用を利用したが、今回の報道をきっかけに、時間と疲労を考えてビジネスジェットを利用するケースは企業経営者を中心に増えることになりそうだ。

【鳥海 高太朗 : 航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師】