将棋の最年少プロ棋士、藤井聡太四段(14)が21日、大阪市の関西将棋会館で指された王将戦予選で若手実力者の澤田真吾六段(25)を破り、歴代1位の連勝記録となる神谷広志八段の28連勝(87年)に並んだ。デビュー戦から無敗での達成は初めて。小学校の卒業文集には「将棋界の横綱になりたい」と強い決意を表明、それからわずか2年あまりで偉大な記録を達成した。前人未到の29連勝がかかる次戦は26日、竜王戦決勝トーナメントで増田康宏四段(19)と対局する。

 歴史的な大一番。終盤に入り、激しい攻め合いになっても藤井四段はまったく動じない。鋭い攻めを連発し、持ち味の終盤力で追い詰める。脱いでいたスーツの上着を着た直後、99手までで強敵の澤田六段を投了に追い込んだ。プロデビューからわずか半年の中学生棋士が、将棋界で「不滅」といわれた大記録に30年ぶりに並んだ。

 藤井四段は「本当に思ってもみなかったこと。非常に幸運。つきがあった」と喜びを語った。それでも28連勝は「苦しい対局も多くあったし、はっきり負けの対局もあった」と振り返った。

 対局を重ねるたびに強くなる。進化を支えるのは将棋への強い思いと覚悟だ。

 小学校の卒業文集には「30歳までに将棋界の横綱になりたい」と書いた。

 5歳から将棋を始め、異例のスピードで階段を駆け上がった。小学4年のときに全国の逸材がプロをめざす養成機関「奨励会」に入会。すでに小学校時代に自らの職業を選択するだけではなく、将棋界でトップに立つ目標を掲げた。

 母裕子さん(47)は「祖父(昨年2月死去)が大相撲が大好きでした。聡太もその影響を受けたみたいです」。好きな大相撲に例え、プロ棋士になる前から覚悟を決めた。

 一方で小学4年で奨励会に身を置くのは途方もないプレッシャーだ。卒業文集にこう記した。

 「ぼくは奨励会の初段になった。四段になればプロ棋士だ。近いようにも聞こえるが、上に行くほど厳しくなる世界だ。ひとつの負けで一気に昇段が遠のいてしまうこともある」

 藤井少年は幼稚園のときからよく食べ、よく体を動かした。裕子さんによれば小学校時代も平均体重以上の「健康優良児」。裕子さんは冗談を交えながら体格のいい息子を励ました。「中学生のうちにプロになれなかったら相撲部屋」。母の言葉をはね返すように羽生3冠らに続き5人目の中学生棋士になった。

 将棋を始めたときから強い思いがあった。6歳の幼稚園の年長で誕生日に担任の先生からもらったメッセージ入りのプレゼントに藤井四段は、「しょうぎのめいじんになりたい」と書いた。

 卒業文集の最後には「将棋史に名を残す棋士になるために、日々精進していきたい」。大記録を達成した天才棋士は同じ言葉を重ねた。「まだ実力が足りない。強くなるように精進したい」。山頂はまだ先にある。【松浦隆司】