与野党で27日、裁量労働制をめぐる厚生労働省の不適切なデータ処理問題をめぐり、安倍晋三首相が第1次政権で苦しんだ「消えた年金問題」になぞらえる声が出始めた。厚労省には、野党だけでなく自民党からも批判が強まっており、裁量労働制を盛り込んだ首相肝いりの「働き方関連法案」の行方も、不透明になってきた。

 ◆裁量労働制とは 実際の労働時間にかかわらず、事前に決めた分だけ働いたとみなし、残業代を含めた賃金を支払う仕組み。時間配分を自身で決められる場合に適用される。政府が今国会に提出を目指す「働き方改革関連法案」の柱。政府は一部営業職への拡大を目指すが、野党は過労死を増やすとして猛反対。

 ◆問題発覚の経緯 厚労省の「13年度労働時間等総合実態調査」に、1日の平均労働時間が、裁量労働制で働く人は9時間16分、一般労働者は9時間37分と記載。安倍首相は先月29日、このデータを根拠に裁量労働制による労働時間の短縮効果を訴えたが、この数値は、裁量労働制の人が「1日の労働時間」、一般労働者は「1カ月に最も働いた日の残業時間」に、法定労働時間の8時間を足したもの。異なる条件の比較結果が根拠になっており、首相は今月14日、答弁を撤回し、謝罪に追い込まれた。

 ◆厚労省のずさん対応 現場は今月1日、担当局長は2日に事態を把握したが、大臣報告は7日、首相報告は14日と後手に回った。27日までに判明した「疑義データ」は300件以上。加藤氏が国会で「なくなった」と答弁した調査原本は、厚労省の地下倉庫で発見され、野党は「隠蔽(いんぺい)」と批判している。