平成最後の統一地方選は21日、11道府県で知事選が告示された。結果が中央政界に影響しかねない1つが、福岡県知事選だ。安倍政権を支える麻生太郎財務相(78)が3選を目指す現職と決裂し、新人の推薦を自民党本部に“直談判”して保守分裂に。私怨(しえん)による選挙の私物化と反発した地元は、「反麻生包囲網」の様相だ。劣勢報道に、麻生氏は「安倍晋三ですら(総裁選で)3番と言われて勝った。それが選挙だ」と息巻いたが、お膝元での「身内けんか」は、有権者不在のまま幕を開けた。4月7日投開票。

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「いいタマを抱えた。厳しいが十分に時間はある」。麻生氏は、福岡市内で行われた武内氏の出陣式でこう語った。県連の公募という形だったが、厚労省や外資系企業を経て地元民放局でコメンテーターをしていた武内和久氏の擁立には、麻生氏の意向が大きくはたらいた。陣営からは「政権政党自民党の候補。自民党の名誉にかけて勝たないといけない」との声が出た。

現職の小川洋氏も麻生氏の「引き」で、11年知事選で初当選。麻生氏の福岡での影響力の強さを物語っている。しかし、16年福岡6区補選で、麻生氏系候補の応援に入らなかったことを機に、2人の関係は決裂。しかも補選は、麻生氏系候補が故鳩山邦夫氏の次男二郎氏に惨敗。この「怨念」が、今回の保守分裂の背景にある。

麻生氏は武内氏の推薦を、安倍晋三首相や党本部側に直談判。副総理職の辞職もちらつかせたとされる。推薦はもぎ取ったが、「このごり押しで、地元を完全に敵に回した」(県政関係者)。経済界だけでなく公明党県本部も小川氏を支持。小川氏の出陣式では「なぜ今の知事を引きずり下ろさないといけないのか。一部の権力者と福岡県民の戦いだ」と、麻生氏への強い反発の声が続出した。

山崎拓元自民党副総裁ら安倍政権に批判的な重鎮に加え、福岡の衆院議員11人のうち、二階敏博幹事長率いる二階派の3人を含む6人も現職支持だ。2区の鬼木誠衆院議員は「おかしいことはおかしいと言える、自民党でないといけない」。じわじわと「反麻生包囲網」が広がっている。

そんな経緯もあり、情勢は劣勢といわれる。麻生氏は、首相が再選された12年自民党総裁選を持ち出し「安倍晋三ですら3番と言われ、1番になった。すべてのマスコミの調査が間違っていた。それが選挙だ」と主張したが、山崎拓氏は取材に「地道に普通に戦っていけば、間違いない勝利を得られると思う」と余裕をみせた。

安倍1強を支える麻生氏は、地元で「麻生王国」を築き、78歳の今も第一線で活動する。しかし今回ばかりは、福岡を二分する戦いを生み出し、取り巻く環境は厳しさを増している。【中山知子】