ノーベル賞の文学賞が10日午後8時すぎ(日本時間)にスウェーデン・ストックホルムで発表され、日本人作家で有力候補とされた村上春樹氏(70)の受賞は今回もならなかった。「春樹研究」の第一人者で村上氏と同じ神戸市出身、大学時代は村上氏と同じ寄宿舎「和敬塾」にも入寮経験があり「村上春樹を、心で聴く 奇跡のような偶然を求めて」などの著作で知られる宮脇俊文(66=成蹊大特任教授)に解説してもらった。

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また今年も村上春樹氏のノーベル文学賞受賞は実現しなかった。それは確かに残念ではあるが、問題は受賞を逃した瞬間から特にテレビなどはあっさりとこの話題に幕を下ろしてしまうことだ。ここ10年はまるでお祭り騒ぎそのものだった。もちろん人々が文学に関心を持つことは大歓迎である。

しかし、これまでの取り上げ方は村上氏に対するリスペクトを欠いていたのではないか。なぜ村上文学が世界で読まれるのか、その魅力はどこにあるのか? そうした真剣な議論が何もないまま、ただ騒いでいるだけのようだった。受賞することにしか関心がなく、あとのことはどうでもいいといった感じだ。これでは村上氏に失礼である。

結果はどうであれ、この作家がいかに素晴らしい作品を書き続けてきたか、そしてこの権威ある賞を手にする資格を常に有しているのだといったことを改めて確認するべきだ。ほんとうに彼の受賞を望むのであれば、テレビはもっと真摯(しんし)に彼の作品と向き合うべきだろう。たとえば、『海辺のカフカ』や『ねじまき鳥クロニクル』などの大作の魅力を伝え、読者層が広がることを目指すべきだ。そうしてまた来年度に向けて静かに、しっかりと準備を進めていくべきではないだろうか。

これはあくまでも推測の域を出ないが、二年前のカズオ・イシグロの受賞も影響していると思われる。彼は英国籍だが日本出身である。同じ地域から受賞者が連続して出ることは考えにくい。そうした政治的配慮が働くのもこの賞の特徴である。いずれにしても、それ以上に「ハルキスト」狂想曲も少なからず悪影響を及ぼしていると思わざるをえない。今こそこの姿勢を改める時が来たのではないだろうか。「今が時だ」、そう騎士団長も訴えている!(宮脇俊文)