新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、学校は長期休校となり、社会のありよう、日常は一変した。予想不可能な将来に直面したいま、必要な力は? 藤井聡太七段の幼少期からの「学び」にはコロナ時代を生き抜く、多くのヒントがある。東西の将棋担当記者がこれまでの取材をもとに探っていく。第1回は「好きなことはとことん」です。

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名古屋市中心部から北東へ約20キロ。古くから「瀬戸物」の産地として有名な愛知県瀬戸市で、藤井は生まれた。両親と4歳年上の兄との4人家族。2世帯住宅の隣には祖父母、伯母が住んでいた。

かつて藤井家の子育てについて母裕子さん(49)にじっくりと話を聞いたことがある。「(夫と)子育てについて改まって話し合ったことはないです。最終的には子どもがどうしたいのかを優先してきたと思います」。押しつけるのではなく、子どもが興味のおもむくことを後押しする。

「好きなことはトコトン」

これは母裕子さんの言葉だ。好きなことを自由にやりたいだけやらせる-。言葉で言うのは簡単だが、実際に親として「実践」するのは勇気がいる。

コロナ禍では全国の学校が長期間休校になった。だれも経験したことのない困難な状況の中、自宅での「学び」に没頭できない子ども、若者も多かった。

将棋では未知の局面で導き出す力を問われることがある。5歳で将棋を始めた藤井。幼稚園児のとき、難解な詰め将棋に挑んだ際には、「考えすぎて頭が割れそう」と口にした。1つのことを一生懸命に考え続ける。裕子さんは「好きなことには本当に夢中になる。他のことに注意がいかなくなるぐらい」。遊びでも、将棋でも、何かに集中しているときには、できるだけ邪魔をしないように見守っていたという。

「好き」を極めることで、自然と養われていったものがあった。(つづく)