ジョー・バイデン次期米大統領(78)の就任式が、20日(日本時間21日)に首都ワシントンで行われる。

バイデン氏は、オバマ政権の副大統領として2011年8月に来日し、東日本大震災で甚大な被害を受けたばかりの宮城県名取市の仮設住宅団地にも足を運んだ。当時、団地の自治会長としてバイデン氏と交流した高橋茂信さん(77)は日刊スポーツの電話取材に、復興への力を与えてくれた「トモダチ」の新政権誕生へ、喜びと期待を寄せた。

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11年8月23日。高橋さんにとって、10年前の記憶は鮮明なままだ。バイデン氏の寄り添う言葉、姿勢。「雲の上の人だと思っていたのに、大きな体で小さなオレをぎゅっと抱き締めてくれた。『全面的に応援します。負けないで』ってね。その時、もしかしたら本気で日本や我々を救ってくれる人なのかもしれないと思った」。包まれた温かさに、世界を背負う風格を感じた。

団地内集会所で約1時間の懇親後、車に乗り込む前の予定外の行動に驚かされた。バイデン氏は仮設住宅前に集まる約200人のもとへ、警備の制止を横目に約100メートル小走り。全員と握手した。高橋さんは、米軍の復興支援活動「トモダチ作戦」を引き合いに、「これこそが本当のトモダチ作戦なんだなと思った」と話した。バイデン氏は、交通事故で前妻と娘を亡くした経験を伝え「『あなたたちの気持ちも理解できると思う。共有したい』と言ってくれた」という。前を向く大きな1歩になった。

高橋さんも親族8人が津波の犠牲になった。自身は町内会長として避難誘導中に突然の急流。平屋の集会所の屋根に役員4人と上がり朝を迎えた。「20センチ下まで津波が来た。雪の寒さ、夜は真っ暗、時折電柱などが倒れると火花が散る。人が流される姿も見えたし本当に地獄でした」。約1カ月は会話もできなかったが、バイデン氏との出会いをきっかけに震災の様子を伝える活動も継続している。

「コロナ、温暖化、人種差別など大変な問題がたくさんあるが、米国も日本も世界各国も良くなると思う。トランプさんに邪魔されても、バイデンさんには気持ちの強さがありますから」。米政府経由で贈られた交流時の写真は、“門外不出”の約束がある。「オレのお守りみたいな感じだな」。部屋に飾り、苦しい時には励まされてきた。「同年代のバイデンさんが大統領として頑張るんだから、オレも負けていられない。会いには行けないけれど、いつか日本にもう1度来てくれたら、感謝と恩返しの気持ちを伝えたい」。固い絆で結ばれている。【鎌田直秀】