将棋の藤井聡太2冠(王位・棋聖=18)が2年ぶり3回目の優勝を果たした。11日、東京都千代田区「有楽町朝日ホール」で行われた「第14回朝日杯オープン戦」決勝で三浦弘行九段(46)を下した。際どい寄せ合いを制した。準決勝では、渡辺明名人(棋王王将=36)を相手に詰まされる寸前からの大逆転勝ち。運の良さと、9日に順位戦B級2組からB級1組への昇級を決めた勢いで、三たび頂点へと駆け上がった。表彰式後の会見では、東京五輪の聖火ランナーを辞退したことも明らかにした。

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じっと目をつぶって藤井は三浦の指し手を待っていた。決勝戦の最終盤、詰め手順は頭の中で思い描いている。100手目後手4四飛を見ると、4一にある三浦玉の腹に優勝への一手を打ち込んだ。先手3一金。相手を投了に追い込み、2年ぶり3回目の優勝を決めた。序盤は先に仕掛けた三浦の攻めに苦しめられた。「負けでも仕方がない」とも思っていた。

それは準決勝の渡辺戦も同じだった。終盤のAI評価値は1対99。渡辺勝ちと判断していた。そこから相手の失着もあって、一気の大逆転。「ずっと苦しかったので、開き直るしかないと思って指してました」。薄氷を踏む思いの連続だった。

局面が厳しくなっても、どんなに追い詰められても、そこから粘る術は知っている。局面を複雑化して相手に決め手を与えない。昨年7月の王位戦7番勝負第2局も負け寸前からひっくり返し、結果的に4連勝でタイトル奪取につながった。今回の渡辺も三浦も勝てる順があったはずだが、見誤った。この運の強さは、選ばれた棋士にしかない。

9日には順位戦B級2組で9連勝し、B級1組への昇級を決めたばかり。18日には5期連続優勝を目指す竜王戦ランキング戦2組準々決勝で、広瀬章人八段(34)との対局が控えている。その先には棋聖戦5番勝負、王位戦7番勝負の防衛戦が待っている。仕事始めの会見では、「実力を高めていい状態で向かいたい」と話していた。

今回の朝日杯はその前哨戦とも言っていいだろう。戦う相手のレベルが確実に上がり、マークも厳しくなる分、冷静な形勢判断、正確な読みなどが求められる。過去2回の優勝との違いについて藤井は、「苦戦した印象が強い。しっかり反省して次につなげていきたい」と前を向く。

3月に高校を卒業したら、大学には進学せず将棋に専念する。「いっそう精進していい内容の将棋を指したい」。朝日杯制覇はそのためのステップアップになる。【赤塚辰浩】

 

<対局VTR>

▽1回戦=大石直嗣七段 先手大石が用意してきた中飛車を丁寧に受ける展開に。時間を使って考え、腰を据えて戦う。最後は、終盤の寄せ合いから受けなしに追い込み、押し切った。

▽準々決勝=豊島将之竜王 後手で、角換わりから早繰り銀で積極的に仕掛ける。難解な終盤戦で形勢が一瞬、先手に傾いたかと思われたが、豊島が対応を誤り、寄せ切る。藤井は7戦目にして対豊島戦初勝利で、4年連続のベスト4。

▽準決勝=渡辺明名人 先手の渡辺が相掛かりから主導権を握った。藤井の悪手もあって勝勢を築いたものの、終盤の粘りの前に詰まし損ねる。敗色濃厚だった藤井は最後の最後でひっくり返しての大逆転勝ちで、決勝進出を果たした。

▽決勝=三浦弘行九段 横歩取りから後手の三浦が先に仕掛ける。藤井が反撃してから激しい寄せ合いになり、先手玉が一時、敵陣にまで入る展開に。秒読みに追われた三浦が寄せ手順を誤り、最後は藤井が即詰みに打ち取って優勝。

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