将棋の藤井聡太2冠(棋聖・王位=18)が今春、卒業を予定していた名古屋大教育学部付属高校(名古屋市)を1月末で自主退学したことが分かった。日本将棋連盟が16日、発表した。「将棋に専念したい」が理由で、昨年秋に退学の意思を決めたという。将棋と学業の両立という「難局」は突破できなかったが、今後は仕事1本でタイトル初防衛、史上初の10代での複数冠を目指す。

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藤井が覚悟を決めた。将棋の道を探究し、もっと強くなる-。愛知県でも有数の進学校、名古屋大教育学部付属高校の3年生。3月の卒業式が目前に迫る中での大きな決断だった。

藤井はこの日、日本将棋連盟を通じて「タイトルを獲得できたことで将棋に専念したい気持ちが強くなりました。秋に意思を固め、数回学校と話し合いをした上、1月末日付で退学届を提出いたしました」とコメントを出した。

中高一貫の同校で、高校に進学する際には、進学か、将棋1本に専念するか迷った末に、将棋と学業の両立の「難局」を選んだ。対局が週に2日以上入ることも少なくなく、対戦が長引くと大阪や東京に宿泊する日もあった。

高校ラストイヤーはコロナ禍とタイトル獲得で生活が激変。昨年7月、棋聖戦5番勝負を制し、最も若い17歳11カ月でタイトルを奪取。同8月には王位を獲得し、最年少の18歳1カ月で2冠に輝いた。コロナ禍による休校期間を経て、授業再開のタイミングと棋聖戦、王位戦7番勝負のタイトル挑戦が重なった。7月には8日間で東京、札幌、大阪の3都市を回る過密スケジュールもあった。

2冠獲得時の会見で、高校生活最後の夏休みの宿題について質問された藤井は苦笑いを浮かべていた。「対局が6月に再開されてから、対局のペースが多くて学校へ通えていません。タイトル戦が終わってひと息つけるので、そちらも考えていければ」。

退学の決意を固めた昨秋には、愛知県瀬戸市で走る予定だった東京五輪の聖火ランナーの辞退も決めた。タイトル保持者の重責も自覚した上で、「将棋へ専念する」ためだった。学業との両立のハードルは高かったが、同世代と過ごせた2年あまりの高校生活は、長い人生で貴重な時間となった。勝負の世界から離れた場所で、視野を広げることもできたようだ。

新しい1歩を踏み出す18歳は「一層精進していく所存ですので、今後ともよろしくお願い申し上げます」とコメント。21年度は棋聖戦と王位戦の防衛戦を控え、名人戦を除く竜王戦、王座戦、棋王戦、叡王戦、王将戦で挑戦権を獲得する可能性がある。新たなタイトルを獲得し、「10代3冠」を狙う。【松浦隆司】