熱海市伊豆山の中腹に自宅を構える松本早人(はやひと)さん(46)は午前9時すぎ、慌てた様子の妻の声で起こされた。

「パパ、外の排水口のふたが変なの」。跳ね起きて玄関のそばの排水口に向かうと、フタが水圧で浮き上がっては閉じ、またすぐ浮き上がった。「ガタガタガタ」と大きな音を発していた。

松本さんは「こんなことは今までなかったから、怖くなった」。妻と子どもをすぐに車で市街地へ避難させた。

松本さんは釣り船「喜久丸」の船長だ。大雨が続いていたこともあって、この数日は船を出していなかった。「夜中1時ぐらいから強い雨が止まらなかった。地元の消防団でもあるので、装備だけして待機していたら、午前10時35分に突然停電になった。心臓が止まるかと思った」。

室内は真っ暗に。不安な気持ちが広がったが、5分後には電気がいったん復旧。その後、再び5分後に停電した。

「こりゃ、ダメだ。暗い部屋の中から出ようと思ったら、突然『バリバリバリバリ』と、生きている中で聞いたことのない大騒音がして、音が鳴る方を見たら、近所5軒ぐらいが一気に流されて港の方に落ちていった。何が起こったのかすぐには理解できなかった」

土砂が猛スピードで流れ落ちていったのは、目と鼻の先で、松本さんの自宅からわずか2メートルの場所だった。松本さんは「伊豆山は地盤はしっかりしていると思っていたから安心していた。今後、どうなるのか」と不安な心境を語った。【寺沢卓】