将棋の藤井聡太王位(棋聖=19)が史上最年少3冠となった。13日午前9時から東京・千駄ケ谷「将棋会館」で行われた第6期叡王戦5番勝負第5局で、午後6時22分、111手で豊島将之叡王(竜王=31)を下した。この結果、対戦成績を3勝2敗として叡王を初めて獲得。今年防衛した棋聖、王位と合わせ、叡王奪取で3冠達成となった。19歳1カ月での達成は、1993年(平5)1月に羽生善治現九段(50)が達成した22歳3カ月を大幅に更新する快挙でもある。

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3冠への道が盤上に開けていた。ゆっくり駒台から持ち駒の銀をつまむ。先手6一銀と打ち込んだ。豊島が投了を告げると、史上最年少3冠が誕生した。「先手6二金(107手目)で勝っているかと思いました。最年少3冠は意識してなかった」。時折、目をしばたたかせながら慎重に言葉を選んで、淡々と語った。

お互いに先手番で勝利を挙げて、2勝2敗で迎えた最終第5局。振り駒でと金が3枚出て、先手となった。指し慣れた相掛かりの出だしは対局開始の午前9時から30分で38手のハイペース。そこからスローペースに落ち、長考の末の構想力が問われた。「難しい中盤が続いていた。何とかバランスを保った」と振り返る。徐々にポイントを稼いでジリジリとリードを広げると、最後は得意の終盤力で鮮やかに寄せた。

昨年9月のJT日本シリーズ準々決勝と、今年6月の王位戦7番勝負では振り駒で先手となりながら豊島に敗れた。しかも、初めてのタイトル戦最終局。「結果を出せて良かった。勉強になったシリーズ」とさえ話す余裕もあった。

「強くなりたい」。昨年7月18日のJT日本シリーズ1回戦で菅井竜也八段に勝った後の会見で、こんな抱負を口にした。17歳11カ月の史上最年少で初タイトルとなる棋聖を2日前に獲得し、18歳の誕生日を翌日に控えてのことだった。勢いに乗って同年8月、王位を奪う。対局料と獲得賞金でパソコンを購入して自ら組み立て、研究にあてた。少しでも進歩しようという飽くなき探求心が、藤井を支える。

ファンも後押ししている。新たな棋戦として創設された「SUNTORY 将棋オールスター東西対抗戦」のファン投票が物語る。8月で締め切った最終得票は、6万7257票。西部門で豊島(1万7764票)、斎藤慎太郎八段(1万2360票)を抑え断トツだった。東部門の1~3位は羽生善治九段2万3305票、永瀬拓矢王座2万3226票、渡辺明名人2万895票だから、この3人とほぼ同数を稼いだ。人気、実力ともに押しも押されもせぬ将棋界の第一人者といえよう。

豊島とは10月から始まる竜王戦7番勝負で三たび戦う。「1カ月近くあるのでしっかり準備して臨みたい」。先に4勝すれば、初挑戦で竜王獲得だ。羽生九段が1989年(平元)に達成した19歳3カ月での最年少竜王には及ばないが、史上最年少4冠となる。「自分としては意識していない。どれだけやれるかが大事」と記録には執着しない。

来年始まる王将戦、棋王戦で挑戦権を獲得できれば5冠、6冠へと道が開ける。8大タイトル全制覇も夢ではない。3冠達成を足掛かりとして、ファンならずとも天下統一への期待が高まる。【赤塚辰浩】