将棋界最年少の19歳3カ月で4冠となった藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖=19)が14日、竜王奪取から一夜明けて山口県宇部市で記者会見した。藤井は「昇龍」と揮毫(きごう)した色紙を披露し、さらなる飛躍を誓った。

87年新人王戦準優勝の引退棋士(七段)で、AI学者の北陸先端科学技術大学院大学の理事・副学長の飯田弘之氏(59)の「なぜこれほどまでに強いのか?」。第2回は「名人超え」です。

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竜王奪取、史上最年少4冠達成後の記者会見。そして一夜明け会見でも、藤井4冠は質問に対して、じっくりと考え、丁寧に答えていました。会見では、よく長考されますが、それはまさに「安定した解」を模索しているのだと想像できます。あくまで会見は一例ですが、これはまさにゲームの本質と向き合っている証拠に違いありません。「安定した解」。これが「なぜ、これほどまでに強いのか」の3つ目の視点です。

本年度の勝率は8割4分を超えています。トップ棋士を相手にこの勝率は、将棋の世界に身を置いていた筆者からすれば、驚くべきことです。

高い勝率を維持するには安定した振る舞いが求められます。ゲームにおいて最善手であるかどうかを識別する鍵は「解の安定性」を察知する能力にあるのです。人工知能(AI)は先読み探索、あるいはコンピューターがデータから反復的に学習し、そこに潜むパターンを見つけ出す「機械学習」によってそれが可能となります。藤井4冠は最新版の「ディープラーニング(深層学習)」系のAIを使っていると聞いています。まさに研究の先端を走り、そして自分自身で深く考えることをとても大切にされています。プロ棋士を引退した筆者にはわかりませんが、AIからも学び、「安定した解」を察知する能力を何らかの方法で磨いてきたでしょう。

現在、さまざまな業界で「AIをどう取り入れるか」が議論されています。囲碁、将棋といった思考ゲームの枠を超えて、各分野で「名人超え」したAIから何をどのように学ぶべきかというチャレンジに直面しています。

現在の将棋においてAIの着手との一致率はプレーヤーの実力を測る指標となり得ます。藤井4冠の一致率がどこまで上昇するか、将棋界の枠を超えて、さまざまな分野のトップが注目しているのではないでしょうか。

人類がAIに学ぶ新たな時代のフロントランナーとして、厳しい勝負の世界で驚異的な勝率を残す独創的な芸術家、そしてゲームの本質に迫る「研究者」として、藤井4冠には「新しい知の形」の可能性を感じています。(おわり)

◆飯田弘之(いいだ・ひろゆき)1962年(昭37)1月17日、山形県生まれ。AI学者。元プロ棋士(七段)。中学2年で上京しプロ棋士養成機関「奨励会」に入る。上智大理工学部3年のとき四段に昇段しプロ棋士。故大内延介九段の一番弟子。94年、東京農工大でコンピューターの研究を続け、博士号を取得。同年、棋士としての活動を休業。北陸先端科学技術大学院大学の副学長。「コンピューターは名人を超えられるか」など著書多数。