将棋の藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖)が初の王将奪取と、19歳7カ月の史上最年少5冠にあと1勝とした。栃木県大田原市「ホテル花月」で29日からの2日制で行われた第71期ALSOK杯王将戦7番勝負第3局(主催 毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社・日本将棋連盟)で、30日午後7時15分、135手で渡辺明王将(名人・棋王=37)を下した。これで3連勝。一気に快挙達成となるか。第4局は2月11、12日、東京都立川市「SORANO HOTEL」で行われる。

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藤井が難解な局面を制した。細くて切れそうな攻めを懸命につなげ、手を尽くす。115手目、先手7二金と打ち込み、119手目の先手8一金と飛車を取り、「好転したかな」と感じていた。混戦から抜け出すと、最後は軽い手つきでスーッと先手9六金。渡辺王将を投了と、3連敗のかど番に追い込んだ。

第1局と同じ最新流行形の相掛かり。最後の最後までもつれて優劣不明だった開幕局と違って、今局は初日の封じ手の前から戦いは起こっていた。62手目の封じ手(後手5六歩)から2日目が始まると、一気にペースが落ちた。「封じ手のあたりは失敗したのかなと思っていました。その後、どう勝負していいかという局面が続いたと思います」。

時間を使って長考し、午後0時30分の昼食休憩まではたったの8手。午後1時30分の再開後からおやつが出される午後3時までも、わずか5手しか進まない。

眼下を流れる関東屈指のアユ釣りで有名な那珂川を眺める余裕もない。アユ釣り師が、釣れないときに川の状況を読んで作戦をあれこれ考えると同じだ。盤側でじっと考え、午後4時すぎから仕掛けた。「進んでみると、ちょっと足りないのかなという感触でした」と振り返った。

前夜祭で、「大田原は(源平合戦で源氏方についた武将)那須与一ゆかりの地ということで、扇の的を射るような与一の集中力を見習って臨みたい」と話した。その言葉どおり、難局をものにしてこれで3連勝。初の王将獲得と、史上最年少5冠まであと1勝とした。「内容的には課題が多いかな。次の対局で反省を生かせるように」と謙虚だった。

王将戦7番勝負で、3連勝した棋士のタイトル防衛または奪取率は10割。第1局では「渡辺の掛川対局は過去6連勝」、第2局では「渡辺の開幕からの連敗例なし」と、うれしくないデータを連続して打ち砕いた。第3局を終えて、ようやく藤井に有利なデータが出現した。

5冠達成者は過去3人。最年少は、1993年(平5)8月に羽生善治現九段が達成した22歳10カ月だ。次に勝って、「王将」という的を射止めれば、その記録を大きく更新する。同時に将棋界の勢力分布図も大きく変わる。【赤塚辰浩】

◆将棋界の5冠と最初の達成時年齢 過去3人。第1号は故大山康晴十五世名人。1963年(昭38)2月2日、39歳10カ月で達成した。獲得タイトルは名人・十段・王位・王将・棋聖。次いで中原誠十六世名人(引退)が78年2月6日、30歳5カ月で同じタイトルを獲得。93年8月18日に羽生善治九段が史上最年少の22歳10カ月で達成。この時は竜王・王位・王座・棋王・棋聖を保持した。