東京・築地で老舗の業務用専門の酒販店が新潟・長岡市の名門酒蔵とタッグを組んで誰でも購入できる純米酒を開発した。

1925年(大14)創業の小田原屋は、1度も移転することなく築地6丁目(東京・中央区)でのれんを守ってきた。しかし、この3年間はコロナ禍。お酒を提供する飲食店の営業が制限されたことで小田原屋の業績も伸び悩んだ。

田中泰彦社長(67)は「まったくお酒が出荷されず、塩やしょう油などの調味料で食いつないできた」とため息をつき「売上は通常の9割減。昨年11月からようやく仕事になってきた」と打ち明けた。

ただ、耐えるだけではなかった。息子で専務の泰人さん(31)が、長岡市の蔵元「河忠(かわちゅう)酒造」(1765年創業)と「底ぬけ」の純米酒バージョンでの一般向け商品の開発に取り組んだ。底ぬけは小田原屋の登録商標製品で、製造元の河忠酒造のホームページにも掲載されていない超辛口。これまで本醸造と吟醸の2種がつくられていた。

開発着手は3年前。河忠酒造の9代目河内忠之社長(52)は「泰人専務がとても熱心だった。底ぬけのお米は限定せずに超辛口に合う品種を選んだ。今回は新潟米の五百万石とコシイブキにした。食中酒としてすっきりとした味わい。自信作です」と話した。

底ぬけを扱う銀座などの飲食店で小田原屋が取り扱っていることを聞きつけたファンから一般販売についてたびたび質問されていた。その度に小田原屋では「飲食店専門のお酒なので売れません。すみません」と頭を下げ続けてきた。

一般販売する純米酒のラベルは、底ぬけのロゴを反転させるなどのインパクトをつけて「底ぬけ~裏ラベル」と命名して4月21日から売り出した。世間の巣ごもり生活に対応して小田原屋も初めてインターネット販売に乗り出した。

「いいお酒ができた。オンラインも大事ですが、築地場外に多くのみなさんが足を運んでいただけるよう店頭販売もできるようにした」と田中社長はつぶやき「他の銘柄でも一般用商品を開発をしていく予定。他店ともコラボしてかつてのような場外のにぎわいを取り戻したい」と田中社長は笑顔をみせた。【寺沢卓】