安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した事件は8日、発生から1カ月を迎えた。

この間、警護の問題とともに、次々と浮上したのが「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)と国会議員の関係だ。霊感商法が社会問題となった1980年代からジャーナリストとして旧統一教会を追い、国会議員としても2010年から参院議員を2期12年務めた有田芳生さん(70)に教団と政治について聞いた。

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旧統一教会は1992年、人気歌手や元五輪選手が広告塔として合同結婚式に参加したことで注目を集めた。93年、脱会を巡る家族と教団の熾烈(しれつ)な争いで、実態は知られるようになったが、95年にオウム真理教事件が発生すると、その陰に隠れた。有田さんは95年秋、警察庁幹部から「オウムの次は統一教会をやる」と聞いた。不安をあおって高額な印鑑等を売り付ける特定商取引法違反(威迫)などで信者は逮捕されたが、教団本部に強制捜査が入ることはなかった。有田さんが「何でやらなかったの」と聞くと、幹部は「政治の力だよ」と答えたという。

「オウムの次は自分たちだと統一教会側も知っていた。警察に強い議員へ働きかけ、関係を深めていったんです。2003年に(レギュラーコメンテーターをしていた)『ザ・ワイド』に幹事長となった安倍さんを呼んだとき、CMの間に『接近してくるでしょ』と聞いたら、『たくさん来る。会わないよう注意している』と言っていた。2007年の教団の内部資料では国会議員へのロビー活動や裁判経費に月1億円もあてていた」(有田さん)。

旧統一教会は安倍氏の祖父岸信介元首相との深いつながりで知られる。初代会長の久保木修己氏は1964年、東京・南平台の岸元首相の自宅の隣に本部を置き、68年に設立した政治団体「国際勝共連合」でさらに関係を深めた。久保木氏は回顧録で「岸先生はしばしば本部に足を運んでくださいました」と書いている。

この1カ月、教団との関わりが明らかになった国会議員でひときわ目立つのが安倍派だ。「岸信介、安倍晋太郎、安倍晋三と3代にわたる歴史的なつながりです。統一教会票は全国で6万~8万票ですが、ただ働きをいとわず、熱心に動いてくれる。持ちつ持たれつの関係が続いてきたのです」(有田さん)。

今、焦点となっているのは、世界平和統一家庭連合への名称変更を15年に文化庁が受理し、認めた問題だ。当時、文科相だったのは安倍派会長代理の下村博文氏。問題が発覚した当初、「通常、書類がそろい、内容が確認できれば事務的に承認を出す。大臣に伺いを立てることはしていない」とコメントを出した下村氏は8日後、一転して「報告を受けていた」と認めた。きっかけは有田さんが保管していた文書だった。有田さんが当時、文化庁に問い合わせたときの質疑応答記録に「名称変更にあたり、周辺情報を大臣に報告している」と書かれていた。

「下村さんは『報告は受けたが、文化庁文化部長の決裁・判断だった。私が受理しろと言ったことはない』と方向転換した。ただ、文化部長レベルでは認可するかどうかの権限はない。下村さんは細かく指示する人です。大臣指示は官僚が必ずメモを取っています。そのメモが出てくるかどうかが今後の焦点です」と有田さんは話している。

◆有田芳生(ありた・よしふ)1952年(昭27)2月20日、京都市生まれ。立命館大経済学部卒。いくつかの出版社を経て86年からフリーのジャーナリスト。「朝日ジャーナル」では霊感商法批判キャンペーンに参加。同誌休刊後は『週刊文春』で統一教会報道に携わる。オウム真理教(アーレフに改称)や、北朝鮮による拉致事件などにも取り組んだ。2010年に民主党から参院選比例区に立候補し、37万票を獲得し初当選。16年も参院選比例区から立候補して2選。今年7月に立憲民主党から比例区で立候補するも落選した。