インターネットラジオアプリ「GERA」が、じわじわとお笑いファンの人気を集めている。売り出し中の芸人が、地上波ラジオとはひと味違うトークを聴かせるのが売り物だ。中でも人気を集めるのが、漫才コンビ・錦鯉の長谷川雅紀(51)がボケ倒し、渡辺隆(44)が突っ込みまくる芸風そのままの「人生五十年」だ。長い下積みを経験した中高年の星は、新しいネットメディアで何を話しているのか。【秋山惣一郎】

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-「人生五十年」は、M-1優勝の前年、2020年(令2)5月にスタートした

雅紀 錦鯉として初めての冠番組ですし、仕事もあんまりないころだったんで単純にうれしかったです。でも、GERAなんて聞いたこともないし、収録は会議室だし、怪しいな、とも思ってました。

隆 テレビにほんのちょっと出させてもらえるようになった時期でした。僕もGERAって何だろうと最初は思いましたけど、雅紀さんと2人でしゃべる場ができるならいいか、と。

-どんなトークをしているのですか

隆 僕らは、コンビとしては、割としゃべる方なんで、普段と同じような感じですね。

雅紀 今、僕は歯が10本ないんですが、番組を始めたころは7、8本でした。僕の歯が抜けていく過程も楽しんでもらえます。

隆 部分入れ歯を着脱する音を配信したよな。

雅紀 そういうのも聴けますから。我々の番組は。

-音だけで伝える難しさは感じますか

雅紀 ダメですね。ラジオ(音声アプリ)なのに身ぶり手ぶりでやっちゃうんです。んで、あっちこっちぶつけちゃいますね。

隆 この人、さっきもエレベーターを降りる時、肩をガンッって思いっきり扉にぶつけたんですよ。でも、ノーリアクションで。みんな心配しちゃって。

雅紀 大丈夫。ぶつかったのは気づいてるから。

隆 心配してるんだから、まわりのためにもリアクションしてよ。

雅紀 まぁね、何かしらのリアクションは、必要だとは思いますけどね。僕は気にしないです。

-21年2月、22年1月には、オールナイトニッポン(ニッポン放送)のパーソナリティーも務めました

隆 昔から聴いてた番組に呼ばれたんで、テンション上がりましたね。生放送なんで気をつけなきゃいけないこともありましたが、あまり深く考えず、GERAと変わらない感じでやりました。と言っても、変えようもないんですけど…。

雅紀 僕もずっと聴いてた番組なんで、テーマ曲「ビタースイート・サンバ」が流れた時は感動しました。で、あれ、ディレクターに注意されたの何だっけ?

隆 入れ歯洗浄剤の話だろ。

雅紀 そう! 中高生が聴いてるから、入れ歯の話は…、みたいなカンペを出されました。そういうギャップはありましたね。

-新聞記事を元に、雅紀さんが語る「ジジイ時事」のコーナーも人気です

雅紀 学がないんで、去年の9月から新聞を読み始めたんです。

隆 新聞つっても、小学生向けの読売KODOMO新聞じゃねぇか。

雅紀 読み始めて1年たって、もっとグローバルに行こうと思いまして、中高生新聞に切り替えようか迷ってます。

隆 むしろ一段、下げた方がいいよ。

雅紀 幼稚園新聞なんてないでしょう! いや、あるのかな?

隆 ま、あんまり重くなってもアレなんで、KODOMO新聞をネタに、どんだけしゃべれるか、面白がってやってます。

-GERAのレギュラー番組では、常に上位の人気です

隆 おじさん2人のトークなんか、誰が聴いてるんすかね。まさか中高生はいないと思いますけど。

雅紀 若手の番組も多いしね。ラランドなんか、まだ20代でしょ。

隆 雅紀さんは、対象年齢3歳ですから。

雅紀 知育玩具じゃないんだから!

-漫才ではボケ役ですが、今、突っ込みました

雅紀 僕は突っ込みもできるんです。今の突っ込み、決まりましたよね。

隆 突っ込めてねぇよ。知育玩具って、俺が教えたんだろ。

雅紀 隆が言ってたのを「何ソレ? どういう字書くの」って最近、覚えました。頭が良くなるおもちゃのことでしょ。ちゃんとインプットしたのを今、アウトプットしましたから。

-GERAアプリの連続再生機能を使えば、全配信を続けて聴けます

隆 連続再生は、やめた方がいいです。バカになりますから。

-そろそろ収録が始まるようです

雅紀 じゃあ、トイレ行って戻ってきます。

隆 戻ってくんのは分かってんだから、そこは言わなくていいんだよ。

◆錦鯉(にしきごい)1971年(昭46)、北海道生まれの長谷川雅紀と、78年、東京都生まれの渡辺隆が12年に結成。雅紀が縦横にボケまくり、隆が冷ややかに突っ込む芸風で、21年、漫才コンテストM-1グランプリで優勝した。当時、雅紀は50歳でM-1史上、最年長王者となった。

■GERAとは 曜日がわり23番組配信

「GERA」は、東証1部上場のインターネット広告会社「ファンコミュニケーションズ」(本社・東京)が運営するお笑い芸人のトークに特化した音声アプリ。同社の新規事業として20年4月にスタートし、現在は週1回、23番組を曜日がわりで配信している。アプリのダウンロード数は右肩上がりで増えているという。

地上波ラジオとの最も大きな違いは、収益源を広告に頼らない点だ。リスナーが配信者に直接、お金を払う「投げ銭」的なシステムを採用。アプリ内に名前を出せる「サポート」は500円、パーソナリティーが番組内で名前を読み上げる「スポンサー」が2000円。課金するまでもないが、おもしろかった、応援したい、というリスナーは「いいね」に相当する「応援」ボタンを押せる。動画広告を見ると、もう1回「応援」できる。

配信機材は市販のもの。スタジオは社内の会議室でスタッフはごく少数。はがき職人を制作側に巻き込む仕組みも試行しており、今後、本格的に取り組んでいく。コストを抑えて出演者に還元する方針で、出演料は「失礼な言い方になるかもしれないが、地上波ラジオより高いのではないか」(同社)。芸能事務所もこれから売り出したい芸人の出演に関しては協力的で、今や売れっ子となった錦鯉、ラランド、ザ・マミィらが、ブレーク前から番組を持っている。

同社GERAチームの恩田貴大マネジャーは「本業のネット広告市場は、外資大手の寡占が進み、思うほど成長していない。そこで広告に頼らない新規事業を、と始めたのが『GERA』です」と話す。その上で「事業の根幹には『プロシューマー』という考え方がある。つまりプロデューサー=生産者とコンシューマー=消費者の区別をなくして、生産にも消費にも関わる人を増やしていこうという発想です。ラジオは好きだが、聴くだけだった人たちを、いろんな形で巻き込んで、みんなをハッピーにする。そんな事業に成長させたい、と考えてます」と話している。