私たちの生活に浸透してきたリサイクル。その1歩先を行くのが、「アップサイクル」だ。廃棄される予定だったものに付加価値をつけて、全く新しい商品に生まれ変わらせる仕組み。特に、身近な服のアップサイクルでは、唯一無二の商品がSDGs(持続可能な開発目標)にもつながる。アップサイクルを「身にまとうアート」という独自の視点でとらえ、商品開発を進めるファッションデザインプロデューサー高階敏子さんに話を聞いた。
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アップサイクルは、使用済みや捨てられるはずだったものを活用して、より価値の高い製品に再生させる取り組み。資源として再利用するリユースや有効活用するリサイクルと異なり、世界はもちろん、日本でも企業が関与したプロジェクトが始まっている。
そんな中、高階さんが手がけるのは、独特の色彩を持つスカーフ、それもビンテージ(価値の高い年代物)の製品を組み合わせながら1枚のシャツに仕立て、人が着ることで、1つのアートとして完成させるというプロジェクト。コンセプトは「NOT FASHION BUT ART(ファッションではなくアート)」。1人1人のスタイルが、それぞれ唯一無二の「美術作品」となる観点から「身にまとう(クロッシング)アート」とも位置づけている。
高階さんは早大卒業後に大手ファッションメーカー勤務を経て独立、神戸を拠点に活動している。SDGsという言葉が注目される以前からファッションの持続可能性のあり方に着目。リメークファッションコンテストなども手がけた。業界での経験が豊富だからこそ、昨今の衣料の大量消費や大量廃棄の流れには、危機感を持っていた。
「服を捨てることに罪悪感を感じない流れになっていると感じる。大量生産、大量廃棄される服ではない、世界に1枚しかない自分の服ってすてきだなと思うようになった。日本には物を大切にする心や、世代を超えて受け継ぐスタイルがある。きりだんすはかんなで削ってメンテナンスしながら使うし、割れた陶器も金つぎをしながら長く使う。形を変えてものを大切にするアップサイクルは、日本元来のスピリッツと考えるようになりました」。
ファッションである以上、美しく、気持ちが上がることを重視。美しい色合いのビンテージスカーフを使うことにたどり着き、だれでも着る機会があるシャツを通して、日本の文化や精神を発信したいという思いに達した。20年に「地球環境に配慮したアップサイクルシャツ企画」をスタートさせた。
生地となるスカーフは10年ほど前からパリや米国などで買い集め、色や柄がお気に入りのもの。母親のたんすの中に眠っていたものもある。大判のものを5枚ほど使いながら、シャツに仕立てる。スカーフは丁寧に手洗いして干し、アイロンをかける。全体のイメージを想定し、型紙に合うか、柄合わせの調整など複数の工程を重ねた上で裁断。縫製担当者が1点1点手縫いで縫い上げ、約1カ月かけて1枚を完成させる。ディレクターを務める高階さんのほか縫製、デザイン生産担当の3人のユニットを中心に、「作品」を作り上げる流れだ。
ビンテージのため、穴があいたものも個性としてデザインに生かす。スカーフ本来の肌触りの良い質感で、立体的なシャツに仕立ててもきれいなシルエットに仕上がるという。サイズはフリーで、男女兼用だ。
現在は本格的な商品展開に向けた最終段階で、価格も調整中。高階さんは「サステナブルな服を着ることがおしゃれ、ラグジュアリーなんだという提案をしたい」とした上で「ファッションとアートは以前から関わり合ってきたが、どちらかというとアートは商業的視点から関与する立ち位置だった。私たちが手がける『身にまとうアート』は、アートの視点を重視してファッションへ昇華させる取り組み。新しいアート・ムーブメントを生み出したい」。新しい服のあり方の考えを、発信していくつもりだ。【中山知子】
■TDRでは8種類グッズ
東京ディズニーリゾートでも、アップサイクルの新たな取り組みが始まる。昨年7月、パーク内で回収したものを活用して開発する「東京ディズニーリゾート・サーキュレーティングスマイル」がスタートし、その一環で、キャストのコスチュームをアップサイクルしたグッズを6月22日に発売する。東京ディズニーランドのレストラン「チャイナボイジャー」「ポリネシアンテラス・レストラン」、東京ディズニーシーの「ゴンドリエ・スナック」のコスチュームをアップリケに使ったTシャツ(1万5000円)、キャンバストートバッグ(1万8000円)のほか、東京ディズニーシーのショップ「ノーチラスギフト」のコスチュームのデザインを生かしたショルダーバッグ(1万9000円)とトートバッグ(2万6000円)の計8種類。
デザインの変更をきっかけに出番を終えたコスチュームをそのまま活用。元となった素材をそのまま生かしたグッズの開発は今回が初めてだ。「コスチュームの大きさ、生地を切り取る場所の違いによって1つとして同じものが生まれない面白さがあることも、アップサイクル商品ならではの特徴です」としている。
■衣料の現状
環境省は21年4月、ファッションと持続可能性のあり方に関する調査を発表した。「ファッション産業は製造にかかるエネルギー使用量やライフサイクルの短さから、環境負荷の大きい産業との指摘があり、日本だけでなく世界的な課題となっている」と指摘。持続可能を念頭に置いた取り組みは拡大しているものの、日本ではまだ限定的だとし、意識のアップデートを求めている。
調査によると、日本での衣料供給量は増えているが、服1枚当たりの価格や市場規模は下落傾向という。大量生産&消費の傾向が拡大、服のライフサイクルの短期化で大量廃棄への懸念が生じているとしている。
家庭から手放される服の量は年間約75万トン。手段には<1>古着として譲渡や売却<2>資源回収<3>ごみとして廃棄があるが、ごみとして廃棄の割合が最も高く、年間約50万8000トンにのぼるという。そこでリサイクルされる量は約2万4000トン、全体のわずか5%。95%に当たる約48万4000トンが焼却や埋め立てられているのが実態で、大型トラック約130台分の量が毎日処分される計算という。