空に向かってサヤが伸びていくことから「天豆(ソラマメ)」。春を告げる甘くおいしいおまめさんだ。三浦半島の突端、神奈川・城ケ島で固有種のソラマメが栽培されている。サヤの長さは8~10センチとかなり小ぶりなので、もちろん緑色の豆も小粒。ただし、味が濃く、薄皮も厚くなく塩ゆでにしたらそのまま味わえる。5月1日、今年最後の収穫に同行した。【寺沢卓】
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塩を振ったお湯をぐつぐつと茹(ゆ)だるまで待つ。その熱湯に2分通すだけ。あざやかなグリーンが映えるソラマメのサヤが目にまぶしい。プチン! 指で軽く押すだけで小粒の豆が飛び出てくる。通常のソラマメよりも小さめだからなのか、薄皮をむかなくてもそのまま食べられる。薄皮ごと食べて初めて知る薄皮の持つ甘さに出合える。こりゃ、うまい、甘い、そして濃い。
城ケ島だけで栽培されているソラマメ-この時期だけの収穫なので、古くから住む島民には、愛情をこめて五月豆(ごがつまめ)、もしくは皐月豆(さつきまめ)と呼ばれている。
残念ながら市場には出回っていない島だけの固有種なので、地元の三浦市でも、島民以外では食べたことがない“幻の豆”とも。収穫は5月上旬までなので、今年の新マメは刈り終わっていて、食べることはできない。もぎたてを楽しむならあと1年、来年まで待つしかない。
5月1日に今年最後の収穫を行うという情報が入り、同行した。城ケ島でソラマメを育てているのは「城ケ島野菜をつなぐ会」のメンバー9人。農業専従者ではなく、仕事を持ちながらのボランティアが城ケ島の畑を守っている。
きっかけは、偶然だった。神奈川新聞の記者がソラマメではない別件で取材をしているうちに、高齢女性の悩みを聞くことになってしまったという。「今まで自分たちで城ケ島のソラマメを守ってきた。でも島民の高齢化で畑を継ぐ人がいないのよ」と涙ながらに話す姿が胸に迫った。
その場の勢いで、つい「わかった、俺がなんとかするよ」と返してしまった。
城ケ島の農地も、専業で耕作している人はいない。漁業従事者が島内の土地を開墾して自分たちで食べる分を育てているケースがほとんど。ソラマメを島の固有種と意識することなく、代々受け継いできた。島で野菜をつくる人たちにも高齢化の波が押し寄せ、体力的に限界がきていたことも事実だった。
高齢女性との約束通り、記者が畑を引き取り、近しい人間でボランティア団体を作って現在に至っている。
ソラマメの1年は秋からスタートする。10~11月に種をまく。明けて正月のころになると淡い紫の花弁が5枚の、かわいらしい花が咲く。一般的なサヤの大きなソラマメは白い花が咲く。紫色の花弁は城ケ島の固有種の特徴でもあるという。
そして4月下旬から5月初旬に収穫期を迎える。「つなぐ会」の丸野暢久さん(57)は「肥沃(ひよく)な土地を保つため、ソラマメの種をまく畑では二毛作はせずに何もせずに寝かせておきます」と話す。
城ケ島の固有種、大事に育てられている。「つなぐ会」には守り続けている“掟(おきて)”がある。ソラマメの種を島の外に出さない。撮影担当としてソラマメの記録を残している会員の小林敏昭さん(60)は「吹きさらしの潮風と三浦半島の南端という温暖な環境で育てるからこその固有種。城ケ島にこだわってこそなんでです。種は門外不出は崩しません」と話す。城ケ島ソラマメ、固有種として矜持(きょうじ)だけはどこまでも貫いていく。
■築地青果店が目利き「来年扱ってみたい」
もぎたての城ケ島ソラマメについて、築地場外で創業83年の青果「藤本商店」に目利きをしてもらった。藤本貴也さんは「とてもおいしいソラマメですね。気に入りました」と話し「お得意さんに食べていただいた。かなり評判がいい。関東で唯一だし、来年は目玉商品として扱ってみたい」と、すでに来年に目が向いている様子だった。
▼収穫 その年の気温によって収穫の量は違ってくる。今年は5月上旬まで寒さが残ったことも影響したのか、「不作だった」と小林さんは話す。葉が枯れる病気が一部で発生した。「つなぐ会」では畑を1カ所に集めるのではなく、現在7カ所に分散させることで病気のまん延を防いでいる。それでも7つの畑での収穫量は計300キロ。昨年は約500キロ、22年は約600キロと豊作だったいう。
■喜界島には同種と思われるソラマメ「とーまみー」
城ケ島の固有種と同種と思われるソラマメが鹿児島・喜界島(きかいじま)にあった。喜界島役場の営農支援センター、恵(めぐみ)翔太さん(34)に聞いた。サヤの大きなソラマメは鹿児島県が日本一の生産量なのだが、喜界島のソラマメは「とーまみー」と呼ばれいる。あえて漢字であてれば「島豆」となる。
とーまみーは鹿児島県でも喜界島にしか存在せず、すぐ隣の奄美大島でも栽培はされていない。恵さんは「喜界島にとーまみーが伝わってきたのは江戸時代中期ごろと伝えられている。やはり市場に出回らず、島民が自分たち用に作付けをしているだけ」と話す。
毎年11月に種をまいて、翌1月ごろ薄紫の花が咲く。3月中旬にゆでて食べる分を収穫して、5月中旬ぐらいにサヤが黒くなったら、穀物用に刈り取るサイクルになっている。
穀物用に収穫したものは硬いので水に戻して柔らかくしてから黒糖と一緒に炊いて、島のスイーツとして「黒糖まみー」などと呼ばれているという。
喜界島でのとーまみー全収穫漁は300キロ程度で400キロは超えないという。

